見出し画像

だるまさんがころんボ! 01

FILE.1 殺人処方箋

 妻キャロルを殺害した精神分析医フレミングは、愛人ジョーンに協力を求め、アリバイ工作を行なう。これで疑われることはあるまい。悠然と自宅へ戻った彼だが……。

「フレミング先生?」
 突然、彼の背後から、風采のあがらぬ男が姿を現した。驚くフレミング。
「なんだ、君は?」
「ロス警察のコロンボです」
「警察がなんで? なにがあったんだ? 家内は?」
「おかけになりませんか? あんまり、いい話じゃないんで……」
 葉巻の火をもみ消しながら、眉をひそめるコロンボ。
「キャロルの身になにか?」
「ともかくおかけください」
「事故にでも遭ったんですか?」
 フレミングは神妙な面持ちで、コロンボに近づいていく。
「でもないんですが……」
「じゃあ、どうしたんです?」
「そのですね……何者かが侵入して殺そうとしたんです」
「……殺そうとした?」
「ええ。幸い、まだ生きておいでですがね」
「生きてるって?」
 内心の動揺を悟られぬよう、平静を保ちながら尋ねる。
「……で、今どこに?」
「ここにいます」
 コロンボが隣の部屋を指し示すと、
「はぁい、あなた~♪」
 フレミングの妻、キャロルが笑顔をふりまきながら姿を見せた。
「ダーリン、お帰り。寂しかったわあん」
 フレミングにしなだれかかり、彼の太ももを撫で回し始めるキャロル。
「お、おい。おまえ、キャラがビミョーに変わってないか?」
「もう、ばかぁん。あなたが、あたしをこんなふうに変えたんじゃない」
 フレミングは混乱した。わけがわからない。妻は、私に殺されかけたことを忘れているのか?
「ねえ、あなた。この前のあれ、もう一回やってみせて」
「え? この前のあれって?」
「やあねえ。とぼけないでよ。あたしの首をぎゅうっと絞めるアレよ。あなたのごつごつとした手のひらが忘れられなくて……ああ、あんな快感、初めてだったわ。ねえ、もう一回やってってば」
「なんと。奥さんを殺そうとしたのは、あなたでしたか」
 驚きを隠しきれないコロンボ。
「ねえ、あなた、早くあたしの首を絞めて。早くぅん」
 うつろな目で迫るキャロル。
「うわあ、気持ち悪い。やめてくれえ! そうだ、私だ! 私が殺そうとしたんだ! すべて白状する! だから、刑事さん。この女をなんとかしてくれ!」
「やれやれ」
 コロンボはため息をつき、肩をすくめた。
「どうやらあんた、奥さんを絞殺するつもりが悩殺しちまったみたいですな

▼記念すべき、「刑事コロンボ」第一話。コロンボ初登場のシーンをアレンジ(改悪?)してみました。
▼キャロル殺害後、賊の仕業に見せかけるため、窓を割るフレミング。あの位置関係だと、ガラスの破片がキャロルの身体に降りかかるような気がするんだけど……。てっきりそのあたりが事件解明の手がかりになるのかと思いましたが、結局最後まで触れられませんでした。ふっ。僕の推理なんて、しょせんそんなもんです。
▼機内で夫婦喧嘩を演じるフレミングとジョーン。後ろの女性客がものすごく嬉しそうな顔をしているんですけど……。他人の不幸は密の味?

画像1

《COLUMBO! COLUMBO!》ネット販売サイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?