初めて出会った講談社ノベルス

 品行方正だった少年時代、僕は〈ショートショートランド〉という小説誌に夢中になっていた。
 泡坂妻夫や都筑道夫、岡嶋二人などを知ったのもこのときだ。
 それまでSF一辺倒で、ミステリといえばクリスティしか読んだことのなかった僕が、以降、国内ミステリばかりを読みあさるようになる。
 綾辻行人の『十角館の殺人』に衝撃を覚えたのは、〈ショートショートランド〉の休刊に涙を流してから二年後のこと。
 法月綸太郎、歌野晶午、我孫子武丸など、僕の琴線に触れまくる作品が次々と現れ、さらに太田忠司や斉藤肇など、〈ショートショートランド〉でおなじみの面々まで登場し、すっかり講談社ノベルスの虜となってしまった。
 まさか、それから十数年後、僕自身がそのレーベルからデビューすることになろうとは。
 振り返ってみれば、初めて自分の作品を投稿した場は〈ショートショートランド〉だった。
 その編集長が宇山日出臣だったと知ったのは、もっとあとになってからのことである。
 講談社ノベルスが、ひいては彼が、この道に僕を導いてくれたのだなあと、感慨深く思わずにはいられない。
 ……前置きが長くなってしまった。
 講談社ノベルスというレーベルを意識するようになったのは『十角館の殺人』以降だが、初めて出会った作品はまた別にある。
 横田順彌の『奇想天外殺人事件』がそれだ。
 早乙女ボンド之介なるふざけた名前の男が駄洒落と下ネタだけで事件を解決していくお話。
 最後には、論理的とは到底呼べぬ、強引な真相が待ち受けている。
 僕が作家になる以前、ネット上で初めて公開した作品は、この『奇想天外殺人事件』を模倣したものだった。
 僕の創作の原点だったといってもいい。
 品行方正な少年が、駄洒落と下ネタを連呼するオヤジと化した一因もこの作品にある。
 今、気がついた。
 講談社ノベルスは、僕の人生を決定づけただけでなく、人格までをも一変させた、恐るべきレーベルだったらしい。
 くわばらくわばら。

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〈メフィスト〉2012年vol.1 掲載

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