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だるまさんがころんボ! 16

FILE.16 断たれた音

 チェスの世界チャンピオンであるクレイトンは、前チャンピオンのデューディックに負けることを恐れ、彼をホテル地下のゴミ粉砕機へと突き落とす。事件前夜、クレイトンとデューディックが調味料をコマ代わりにチェスを打っていたことを突き止めたコロンボは、「そのときに私が勝ったから、デューディックは自信を失ったのだ」と答えるクレイトンに疑惑を抱き……。

 ホテルのロビーで、エレベーターを待っていたクレイトンに話しかけるコロンボ。
「お話というのは、補聴器のことです。補聴器の修理に寄ったんで、試合に遅れたといわれましたね。そのとおりでした。この近くの店で裏がとれました」
「そりゃ、なにより」
「補聴器が壊れたときは、不便だったでしょうな。ひとついいことを教えましょうか。補聴器が使えないときは、ランの花びらを耳に押し込むと、よく聞こえるようになるそうですよ」
「は? なんのことだ?」
「いや、なんでもありません。失礼しました」(※なんのことやらわからぬ人はこちらを参照)
 コロンボはクレイトンの前から立ち去ろうとするが、おもむろに振り返り、
「あ、クレイトンさん。そう……大事なこと、忘れてましたよ」
 コートのポケットから、ノートを取り出す。
「デューデックさんのチェス日記を発見したんです。チェスをやる人っていうのは、頭の出来が違うんですねえ。あの人は、すべてのゲームを記録してました。それも一手残らずです」
 ノートをめくるコロンボ。
「あのレストランでのゲームはどうかと思って見たら、ありましたよ。最新の記録としてありました。お聞かせしましょうか? 名前はなく、日付だけで、あとは白黒の各手がメモされ、最後に黒が四十一手で投了とありますが、そうだったんですか?」
「そのとおりだ」
「そこでこんがらがっちゃったんです。確か、レストランの親父がワインをついでるときにゲームが始まったんですよね。年配の紳士が塩の瓶を動かし、それにあなたが胡椒で応じたと。あなたが黒だと思ったんだが」
「いいや」
「でも、普通は塩が白で、胡椒が黒でしょう?」
「それは君の偏見だ」
「そうでしょうか?」
「黒シオとはいうが、白シオとはいわないだろう? だから、塩は黒だ」
「なるほど。おっしゃるとおりです。では、胡椒は?」
 そう尋ねた途端、クレイトンはコロンボの身体をくすぐり始める。
「こしょこしょこしょ!」
「うわっ、くすぐったい。クレイトンさん、やめてくださいよ」
「こしょこしょこしょこしょこしょこしょ!」
「ひいっ! やめて! やめてったら! おい、いい加減にしろっ!
だから白だ
「あ、納得」

▼お気に入りの一作。被害者が一命をとりとめた理由と犯人逮捕の決め手が見事に繋がっており、思わず「うまいっ!」と唸ってしまいます。
▼チェスの試合に負けてしまうから殺す──確かに頭はいいかもしれませんが、ずいぶんと子供っぽい犯人ですよね。かっとなって補聴器を投げつけるところなんて、思いっきり幼児性を残してるような……。子供っぽいということでは、被害者のほうも負けてはおらず、天才とは子供心を失わないことなのか? だとしたら、精神年齢小学生以下と皆によくいわれる僕はかなりの天才? と思ってしまったわけですが……違う?

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