ノセトラダムスの大予言08
3(承前)
なにが起こったのかわけがわからぬといった表情でおたがいに顔を見合わせた亮介と治樹だったが、晶彦に促され掲示板の写真に目をやり、ようやく事態の重要さを悟ったらしい。
「ねえ、この写真ってゆうべ僕らが――」
そう呟いた治樹の口を、晶彦は慌てて押さえつけた。
「向こうへ行こうぜ」
亮介に顎で指示され、晶彦らはひと気のない裏庭へと足を運んだ。あたりに誰もいないことを確認して、治樹の口から手を離す。治樹は大きく息を吐き、それから声を荒らげた。
「どうして? どうしてあの写真があんなところに張り出されているわけ?」
「おまえが張ったわけじゃないんだな?」
亮介が訊くと、治樹は目をむいて激しく首を横に振った。
「あたりまえじゃないか。なんで僕がそんなことをしなくちゃならないのさ」
「能勢にひと泡ふかせたくって、やったとも考えられる」
亮介は首がちぎれるのではないかと思えるほどにぶんぶんと頭を振って否定した。顔はゆでだこのように真っ赤になっている。
「亮介。僕、本気で怒るよ。そんなこと絶対にするもんか」
「でも、あれが治樹の撮った写真だってことは間違いないよな?」
晶彦の問いに、彼は――今度は弱々しく頷いた。
その日からさかのぼること二日前。晶彦らはUFOの写真を撮影するため、夜遅くに学校へ集まった。亮介の読んだ本に、その夜がUFOの数多く発生する特異日なのだと書き記されていたからである。
全員、親の許しを得てやって来てはいたものの、夜遅くに校庭をうろうろしているところを警備員に見つかれば、厳しく注意を受けて追い返されることは目に見えていた。だから、晶彦らはこっそりと校舎裏のビニールハウスへ足を運び、そこから首だけを出して空を見上げることにした。
ビニールハウスは園芸部が野菜を作るために使用しているスペースだ。警備員が校舎の裏までは見回らないことを晶彦らは知っていたし、またビニールハウスの中であれば、三月とはいえまだ冷たさの厳しい夜風から身を守ることもできる。
近くをローカル線が走っていたため、ときおりひどい騒音に耳をふさがなければならなかったが、それを除けば実に快適な環境といえた。
一時間以上も土の上に寝転がって夜空を見上げ、でもいっこうにUFOの現れる気配はなく、三人ともがそろって退屈し始めた頃だった。遠くから足音が近づいてくることに気づき、晶彦らは慌ててビニールハウスの奥へと身を潜めた。
「こんな時間に誰だ?」
「しっ。こっちへ来る」
三人は花壇の陰に隠れ、人影が通り過ぎるのを待った。だがその人影はこともあろうに、ビニールハウスの中へと入り込んできた。
影はふたつあった。大きい人影がハウス内の明かりをつける。薄暗い裸電球がふたつの人影を照らし出した。幸いなことに、花壇の陰に隠れていた晶彦らまでを照らし出すだけの光量は持っていなかったようだ。
晶彦は思わず漏れそうになった声を慌てて飲み込んだ。ビニールハウスの中央でおたがいの腕を背中に回し抱き合っていたのは――能勢とユリだった。
ふと隣を見ると治樹がカメラをかまえて、今にもシャッターを切ろうとしていた。シャッター音が二人に聞こえるとまずい。治樹の手をつかんで行動を阻止しようと考えたそのとき、タイミングよく電車が近づいてきてあたりに騒音をまき散らした。
シャッター音は、抱き合うことに夢中になっていた電球の下のふたりには聞こえなかったらしい。シャッターを切ると同時に、ふたりがキスを交わしたのもまったくの偶然だった。
電車がはるか彼方に去ってしまってからも、まだふたりは抱き合っていた。ごくり、と晶彦は生唾を飲み込んだ。その音がユリに届いたはずはなかった。だが、彼女は能勢の胸にうずめていた顔を上げると、晶彦を見た。視線が絡み合う。見つかったと思い、晶彦は全身をこわばらせた。
だが結局、それは彼の思い過ごしだったようだ。確かに見つかったと思ったのだが、ユリは表情を変えず、再び能勢と唇を重ね合わせた。
つづく
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