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全力少女と中年男

 今年に入って大ブレイクした某五人組アイドルグループから目が離せずにいる。
 メンバーの大半は高校生。四十三歳の中年男が、なぜそこまで彼女たちに心惹かれてしまうのか? その理由はよくわからないが、元気いっぱいに動き回る彼女たちを見ていると、あの頃の自分に戻りたいと、ついつい感傷的な気分に浸ってしまう。

 『ナナフシの恋』は、そんなオッサンが羨望まじりに描いた青春小説である。
 舞台は新校舎の教室。登場人物は高校生六人のみ。一学期の終業式に飛び降り自殺を図ったクラスメイトについて語り合う、わずか数時間の物語だ。
 執筆するにあたって、一幕一場の舞台劇を意識した。舞台が狭ければ狭いほど、登場人物が少なければ少ないほど、物語の展開を制限されたこの空間で一体なにが起こるのかとドキドキさせられる。そのような物語を自分でも作ってみたいとずっと思っていた。
 また、舞台劇はテレビドラマほどリアルを追い求める必要がない。背景がハリボテでも、突然主人公が歌い始めても、中年役者が若者を演じても、観客はまったく違和感を覚えない。
 非現実的な世界にのめり込んでもらうことが、この作品ではとくに重要だった。なぜかといえば……これ以上はネタばれになるので説明できない。あとは実際に作品を手にとって確かめていただければと思う。

 先に述べたアイドルグループの活動をDVDやブログで確認するうちに、気づいたことがある。
 彼女たちの日常は、四半世紀前に高校生だった僕のそれとほとんど変わっていない。
 友情には慎重で、恋には臆病で、だけど好きなことには全力で立ち向かい、ささいなことで一喜一憂し……。携帯電話やインターネットなどコミュニケーションツールは大きく変化したが、根本的なところはまったく同じだ。だからこそ、彼女たちのパフォーマンスに共感できるのだろう。
 あの頃に戻りたいという想い。さすがに外見はどうすることもできないが、舞台劇なら中年の僕でも高校生を演じられる。
 ぜひ、あなたも七人目の登場人物となって、彼らと共に事件の真相を探っていただきたい。舞台劇だと思えば、違和感なく物語に入り込んでいけるはずだ。
 自らの高校生時代を思い出し、甘酸っぱくもほろ苦い数時間を体感していただけたなら、こんな嬉しいことはない。

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〈IN POCKET〉2012年9月号 掲載

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