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ろんぐろんぐあごー

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デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。
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2023年9月の記事一覧

MAD LIFE 149

MAD LIFE 149

10.思いがけない訪問者(12)4(承前)

「おい。そんな口をきいていいのか?」
 中西はそういって、さらに男の腕をひねった。
「い、痛てててて。わかった、わかりました。出ていきます。出ていきますってば」
 男が情けない声をあげる。
「二度と来るな!」
 ふたりを家の外へ放り出すと、中西は入口のドアを閉め、しっかりと鍵をかけた。
「チクショー! 覚えておけよ!」
 ドアの外から負け犬の捨て台詞が

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MAD LIFE 148

MAD LIFE 148

10.思いがけない訪問者(11)4(承前)

「女がひとり訪ねてきただろう?」
 長身の男がいきなり玄関口へ入りこみ、あたりを見回しながらいった。
「女? 知りませんよ」
 中西はとぼけて頭を横に振る。
「隠すとためにならねえぞ」
 背の低いほうは中西の真正面に立ち、凄みをきかせながらいった。
「なんにも隠しちゃいませんって」
「嘘をつくな!」
 背の低い男はそう叫ぶと、中西の胸倉をつかんだ。

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MAD LIFE 147

MAD LIFE 147

10.思いがけない訪問者(10)4(承前)

「奴ら?」
「追われてるの、あたし」
 胸のふくらみが背中に当たる。
「追われてるって……誰に?」
 中西はどぎまぎしながら尋ねた。
「パパの雇った殺し屋」
 真知が声をひそめて答える。
「はあ?」
 思わず吹き出してしまった。
「なにがおかしいの?」
 真知がこぶしで背中を叩く。
「殺し屋って……赤川次郎の読みすぎなんじゃないのか?」
「嘘じゃないわ

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MAD LIFE 146

MAD LIFE 146

10.思いがけない訪問者(9)4(承前)

「ありがとう。助かったわ」
 その女性は胸に手を当てながら、安心した様子で壁にもたれかかった。
 女性の顔を眺める。
 歳は二十歳前後だろうか?
 ぱっと見た感じは女子大生っぽいが、もしかするとOLかもしれない。
 肌がツルツルで卵みたいだ。
 中西はそんなことを思った。
「あの……どなたですか?」
 なんで俺が敬語を使わなくちゃいけないんだ? と思いな

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MAD LIFE 145

MAD LIFE 145

10.思いがけない訪問者(8)4(承前)

 可愛い女の子だとは思っていた。
 でも、それだけだった。
 年下の友人程度に感じていたはずなのに、いつの間にか中西の中にはそれ以上の感情が芽生え始めていたらしい。
 瞳とは五回ほど遊びに出かけた。
 あれはデートだったのだろうか?
 いや、そんな恋愛じみたものじゃなかった。
 俺はただ、瞳のお守りをしていただけ。
 ……本当か?
 心の中からもうひとり

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MAD LIFE 144

MAD LIFE 144

10.思いがけない訪問者(7)3(承前)

 我に返り、灰色の壁に掛けられた時計に目をやる。
 手術開始から三時間十分が経っていた。
 手術室の重たい扉が開き、中から医師と看護師、そして立澤を乗せたストレッチャーが現れる。
 八神が立澤のそばに近づこうとしたが、医師がそれをさえぎった。
「まだ危険な状態が続いています。しばらくは絶対安静です」
「しゃ、社長は助かるんでしょうね?」
 郷田が尋ねる。

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MAD LIFE 143

MAD LIFE 143

10.思いがけない訪問者(6)3(承前)

 派手なドレス。
 どぎつい化粧。
 今まで見たことのない彼女の姿に、浩次は唖然とした。
「ご苦労様、浩次さん」
 江利子が笑って、長崎の肩にもたれかかる。
 それでようやく、浩次はすべてを悟った。
「こいつは俺の娘なんだよ」
 長崎が江利子の髪を撫でる。
 ふたりはたがいに顔を見合わせ、不気味に微笑んだ。
 悪魔のような笑みだったことは今も忘れない。

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MAD LIFE 142

MAD LIFE 142

10.思いがけない訪問者(5)2(承前)

 江利子は大金を持っていた。
 江利子と再会して以降、晃が豪華なホテルに連泊できたのも、すべて彼女のおかげだ。
「お父さんとお母さんは元気?」
 江利子の質問に、晃は「ああ」とだけ答えた。
 父の顔を思い浮かべるだけで気分が悪くなる。
 俺の人生をかき回す男……あんな奴、死んでしまえばいい。
 晃は姉に気づかれぬようにため息をついた。



 手術室の

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MAD LIFE 141

MAD LIFE 141

10.思いがけない訪問者(4)2(承前)

「どうしたの? 晃」
「俺、ずっと訊いちゃいけないような気がしてた……でも……」
 晃は言葉を濁した。
「なによ、気持ち悪い。はっきりいいなさい」
「うん……じゃあいうよ」
 息を吸いこみ、思っていたことを口に出す。
「姉さん……この二年間、一体なにをしていたの?」
「…………」
 江利子が答えるまでには多少の間があった。
「……いろんなことよ」
 よう

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MAD LIFE 140

MAD LIFE 140

10.思いがけない訪問者(3)1(承前)

 あの日、長崎は自宅にいた。
 今頃、江利子は立澤に抱かれているに違いない。
 親としては複雑な気分だったが、わずかに喜びのほうが勝った。
 娘が立澤の妻になれば当然、俺の格も上がる。
 うまくいけば、次の組長に選ばれるかもしれない。
 ……だが、長崎の目論見は脆くも崩れ去った。
「ただいま」
 玄関のドアが開き、江利子が現れる。
 彼女は鮮血に染まった

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MAD LIFE 139

MAD LIFE 139

10.思いがけない訪問者(2)1(承前)

 俺を撃ったあいつの名前を誰かに伝えるまでは、絶対に死ぬわけにはいかない。
 長崎は必死で歩いた。
 だが、人影はまるでない。
 用心深い奴め。
 わざと人通りの少ない場所を選びやがったな。
 ……眠い。
 長崎は立ち止まり、まぶたを閉じた。
 頭がぼんやりする。
 もう一歩も歩けそうにない……

 最近のことを思い返す。
 一週間前、長崎はアジトを捨て

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MAD LIFE 138

MAD LIFE 138

10.思いがけない訪問者(1)1

「待て!」
 長崎典和は慌てていた。
「おまえ……正気か?」
「おまえにそんな心配をされるとはな」
 その人物は低い声で答えた。
「私はいつだって正気さ」
「おい……頼むからその物騒なものをしまってくれ」
 銃口は長崎にまっすぐ向けられている。
「なぜ、しまう必要がある? こいつはおまえを殺してくれるのに」
「やめてくれ……」
 長崎は後ずさった。
 ビルとビル

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MAD LIFE 137

MAD LIFE 137

9.序章のフィナーレ…謎(16)6(承前)

 ――ホント、今日のあなたは素敵よ。
 突然、洋樹の背後で声がした。
 ――だってあなた、もう踊らされていないもの。
「……え?」
 驚いて振り返る。
 だが、そこに誰もいなかった。
 ――うふふふふ。
 全身がくすぐったくなるような笑い声が聞こえる。
 でも、そこには風が吹いているだけだ。
 まるで風が笑っているようだった。
 洋樹は立ち止まったまま

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MAD LIFE 136

MAD LIFE 136

9.序章のフィナーレ…謎(15)6(承前)

 会社までの道のりをゆっくりと進む。
 一週間前、洋樹はこの道を今とはまったく違う気持ちで歩いていた。
 俺は平凡な毎日に飽き飽きしていたっけ。
 それが幸せなことなのだとまるで気づかずに。
 ショーウィンドウに映った自分の姿を見て首をひねる。
 一週間前は自分がイヤで仕方なかった。
 だけど、今はなぜか誇らしい。
「おはようございます」
 中西の声に

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