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タイム・ノーフューチャー・マシン

 地下鉄から家まで10分の道をたっぷり30分以上かけて逆に歩いて、どうにか見つけた財布は植込の上にぽんと放られ案の定札は一枚も残ってない。代わりに入っていたのは覚えのない女の写真。ぞっとする様な、女の死体の写真だ。


「おかえり。また収穫なし?」

 統合人生管理システムのデフォルト設定女の嫌味顔を遮って聞く。

「タイムマシンは実在するのか」

「無いね」

「絶対に?」

「登録された公的情報全て確認しても実現の可能性もない。三文ゴシップ記事なら別だけど、聞きたいのは学術的興味でもゴシップでもなさそうだし質問の前提は?」

 俺は写真の衝撃を振り返りながら聞かせる。


 血は動脈の赤々とした目映さと静脈の黒澄んだ落ち着きが美しくコントラストされ、そこに白い骨がアクセントを添える。身体を走る無数の裂け目は無軌道な様でいて一つ一つの切り口には繊細さが宿る。引きずり出された臓物は未だ蠢いているような瑞々しさがあり、どの様な加工をすればこうなるのかちょっと想像が付かない。本当に怖気が走るほどに美しく、何より全てが俺の好みそのままなのだ!俺の頭の中を覗いた神の授け物か、しかし経験上神は居ないので、まさか自分で撮った奇跡の一枚をすっかり忘れているのか。

 もし俺の写真ならばと裏面を見るとやはり撮影日が書かれている。間違いなく俺の筆跡。日付は今日から3日後。3日後!未来の俺が送って来たとでも?なら、俺は3日後にこの素晴らしい作品を作り出すのか!?


「で、本物か確かめたいと。でもそんな確認よりその3日を特訓にでも使った方が有意義じゃない?もし本物なら実ると分かっている努力なんて楽勝でしょ?もしも偽物でも努力した分は無駄じゃないでしょ?」

 流石人生管理システム、正論ではある。その『まさかそんな努力すら出来ない?』とばかりの挑発顔はムカつくが。

「良いだろう。ならまずは練習素材の確保だ。特訓はとにかく数、300人は必要だ」


【続く】