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神の船行く星々の間
ある日私は神になっていた。
「分かりました。あなた様のお言葉はとても私なんかには分かりません。けれどその儀式をすればまた我らにお恵みを頂けるのですね」
青年はそう言って私の指示通りに大きな板を右に左に動かし、小さな箱を取り出し、また戻し、グニグニとした不気味な紐をいくつも並べ、順番に繋いだり離したりして行く。その間に甲高い悲鳴や低い低い唸り声の様な音が響こうが、板や紐がポツポツと、ぼんやりと、あるいは瞬間的に激しい光を発しようと。「神」のご下命と恐れをねじ伏せ黙々と作業をこなす。なんなら笑顔さえ浮かんでいる。これが神の僕と言う奴かと他人事のように関心する。
目の前の青年がこの共同体で一番純朴な奴ならまだ良かったが、だいたい9割はこんな感じだ。残り1割は表立って反抗的な態度はとらないが、疑念の視線を突き刺して来る。実は私は神ではないので、1割の方が洞察力に優れていると言えなくもない。しかしただの人間だとも見抜いてくれないので、彼らのなかでの渾名は「悪魔」とからしい。嫌だ。
正直やってられない。繰り返すが私はただの人間なので、数ヶ月ぶりの雨を降らしたり嵐をたちどころに消し去ったりはしたが、それはあらかじめプログラムされた処理を呼び出しただけで、人知を越えた重責なんて背負えるわけがない。
しかし、残念ながら人間の範囲での責任はあるらしい。
この星間移民船にただ一人残った乗務員として。例え、船長初めとしたお偉いさんどころか下っ端仲間含めて全員死んでいようが。何世代重ねたかも分からない移民団が既に宇宙だの宇宙船だのの概念を丸ごと忘れていようが。おそらくこの船はとっくに耐用年数を突き抜けて、明日には無数のデブリとなっていておかしくなかろうが。
偶然コールドスリープのポットが致命傷を免れ、偶然長い時を経て動いた覚醒プロセスによって目覚めただけの私には、どうやらただ一人繰り上げ船長の責任があるらしい。
【続く】