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PC spin-off3 "五東 十眞"

日本には古来から、悪霊怨霊の類の他に恐れられていたものがある。鬼というのは、現代でも年代問わずして"悪いものの象徴"であるのには違いない。

あまり口も達者ではなかった。
目つきのせいで人がなかなかよりつかなかった。
それでもひとりだけ、心を交わせる友がいた。
友の名は「蓮」だった。蓮は家も近く、家族ぐるみで仲が良かった。父親同士の職場が一致していたのも大きかったのだろうけれど。

生まれてこの方目つきが悪かった。
勘違いされてしまう性質なのだから、善い行いを心がけなさい。
母に冗談混じりで幼い頃から、そんな事を言われていた。冗談であることも承知していたが、その言葉は今でも染み付いて残っている。

お互い大した家柄でもなんでもない。
それでも蓮の家はウチよりか位も高く、父は部下だったようだ。それでも同じ歳の子を持つ同士か、仲が良かったらしいのだが。
休みの日は家族同士でどこかにいったりする事が多かった。学校の地区も同じなので、中学まで所謂、幼馴染として親友として唯一すべて語り合える仲だった。蓮はどちらかというと社交性も高く、同性の友人も多い印象だったけれど。

中学に入った頃に宿題がわからない、勉強がわからないのだと頼られた事があった。
その時に勉強を頑張りたいのだと強く言われた。どうして?と聞けば、無人の台所を見つめて、医者になりたいと告げていた。通い慣れた蓮の家。気がつけば20時も回る頃。この時間でも我々以外に誰もいない。

ーどうして医者になりたいんや?
ー人を助けたい、からかなあ
ーそうか
ー十眞は夢とか、ないん?
ーそうやなあ。俺も人を助けたいなあ。
ーほんなら、私とおんなじ医者やな
ーいや、医者は無理や、向いてないわ
ーええ?似合うけどなあ

静かな住宅街の一室。机に並べられたノート、プリント、筆記用具。互いにペンを放って、手を床につけて話していた。
いつもの如く、返答に悩んでいた。無言を少し申し訳なく思ってしまう。そんな仲じゃない気もしているが、やけに静かな茶の間の空気を重く感じてしまった。

ー俺、警察になろかなって
ーえ!!ええやん!
ー目つき悪いから逆におもろいやろ
ーいや普通に素直にええと思うよ?
ーそこは笑ってや
ー十眞が警察で、私が医者。ええやん。二人で日本救ったろ

そういって蓮が手を握ってくる。
びっくりして手を引っこめようとしてパッと見る。
目が合った。

キラキラした目、一瞬ビックリしてたけれど、ほんの少し経ったらすぐに照れくさそうに伏目になった。その一挙手一投足、視線も全部、俺の目は外せなかった。いつかその手を握り返したい。そう思っていた。

そこから時はあまり経たずして、一番後悔をした。

「親友」はもういない。
夜、ひとりだった彼女はそれを知っていた一人によって未来を奪われた。

奴は正直誰でも良かったんだ。

その事を知るのすら、膨大な時間がかかった。
犯人以外誰も悪くない。だけど、周りを恨まずしていられるほど大人じゃなかった。

復讐するにも、心に深く刻まれた"善い行い"が、自分の正義を留めていた。
結局、"刑はあまり重くならなかったが"、犯人は裁かれたのだ。
心神喪失だとか、神がどうとか、よく覚えていられなかった。証拠が足らなかったなんて言葉も耳にした。

俺なりの復讐がしたかった。
蓮と最後に交わした心の対話。どうしても夢を忘れられないままだった。
だから警察になった。たった一人で日本を救うなんて大業は無理だと判っていた。

それでも、せめて手の届く哀しみだけでも救いたかった。
もうあんな想いを遺族らに抱かせたくなかった。
はやく事件に関わりたい一心でトップを貫いていた。
未解決事件の独自捜査ばかりしていた。
正直言って褒められた警察官じゃない。チームワークの場において、こんなことをすればむしろ咎められる側だ。知っている。

いつからか、誰が言い出したのか、
「鬼の五東」と呼ばれていた。
目つきは相変わらず悪い。いや、それだけじゃない。解決のためにしてきた行動すべてが見る人によっては鬼に映るだろう。
情がないとも、手柄泥棒とも、言われていた。
なんとでも呼べばいい。

と、大見えを張ったところで鬼でもなんでもない人間だ。むしろ、どちらかといえば不器用この上ない。
ただでさえ勘違いされやすいのだから。努力しているが、うまくいかないな。
また笑われそうだ、なあ。見ててくれとるか?
蓮の分まで出来る事やろうって踏ん張っとるけど、なかなか上手く行かんな。




2015年2月
捜査一課配属前から気にしていた事件の捜査打ち切りが宣言された。多数の被害者の無念を切るにはあまりにもあっけないものだった。
しかし好機があった。上司が直々に掴んでいた情報をもとに、捜査する機会ができたからだ。
単独潜入、どうしたものかと思ったが同条件の探偵とその助手も訪れていたのだ。
日本人にしては珍しい眼の色と、その鮮やかな金髪の裏で何か大きな靄を見出してしまう。
現場にそぐわない陽気な助手も、少し抜けがちな彼女を強く支える精悍な眼差しを感じた。この二人は何かあったのだろう、と。下手をすれば信用できない見た目や性格であるものの、確かに信用たる実力をそこに秘めている。気がした。

それは事実であったことをすぐに確信させられた。
5年。いやそれ以上の歳月を伴う大事件は、そんな探偵方の力によって容易く解決されたのだから。

警視庁に戻って気になっていた事を調べた。
「栖原光」という名を、「四ノ宮八朔」の面影を、双方見た記憶があった。
そうか、そうだったか。これもまた5年前の因縁か。
実習中に現職の人間と聞き込みをした、あの人は弁護士だった。髪も黒かった。印象はほとんど別人だった。
一人の有名女性弁護士を起点として、その父親及び婚約者であった警察官がその命を失った事件。
忘れられるわけのない、あの事件。
すべてそこに繋がっていたようだ。
あの事件があったからこそ、きっと今自分は警視庁捜査一課にいる。これは因縁ではなく、運命だったのかもしれない。

兎にも角にも、元弁護士探偵のもと、強大事件は霧散した。その功績は国民からも讃えられるべきだった。
やけにお茶が好きなようだったので、マスコミからの取材にその事を添えておいた。「英雄方にお茶を。事務所に届けてあげてください」しばらくお茶の売り上げが爆増した、とか。
気がつけばテレビに映るそのCM、企業はあやかれる物すべてあやかろうというのか「栖原茶」が目に入る。大量買いして我がオフィスにも常駐しているのはここだけの話である。

御礼も兼ねて、こっそり茶菓子やお茶の類のギフトを毎月"警視庁"名義で贈っている。
正直、あの二人を放っておけなかった。

2015年9月
捜査が難航している。
被害者は増えていく。

猟奇的な殺人が再びこの町を襲っていた。
常に休み返上で捜査に当たっていたが、疲れは嫌でも溜まるものだった。主任にその事を察せられて1日だけ休暇をもらう事にした。

そう、今日は休みだった。
朝7時、鳴り響く着信音。
上司直々のありがたいモーニングコールが響いて、その休みというものは霧散した。

現場に向かえば見知った顔が後からやってきた。
相変わらず、と言いたかったが探偵当人は相変わらずのご様子だったが、となりの男はあからさまに垢抜けた…いや、調子に乗っていた。あの四ノ宮巡査の弟である面影はとうにない。

再び彼女らとともに難解事件を解決する事となる。


自らの精神力を甘やかしすぎていた。
不可抗力であったかもしれぬが、自らの手で恩人を大きく傷つける事となった。
事件は確かに解決したのだ。救える命も救えたのだった。
悲しみも減らすことができた。しかし、償いけれない罪を自分は負った。

罪滅ぼしの術が思いつかない。
ふと部屋の写真立てに、蓮の目に無意識に向かう意識。

ー俺みたいなんが日本救うなんて無理な話や
ーいーや、十眞なら救える。私も救える。
ー何を根拠に
「その心に正義がある限り、何があっても誰かを助けられる。だから信じて、その正義を。」

蓮の好きな漫画のセリフらしかった。


今は事件捜査が忙しくない、非番の日には必ず探偵事務所の手伝いをしている。
もうすぐ昇進だ。"あまり現場に立てなくなるだろうな、特に君のような優れた刑事は。"
その言葉がとても嫌だった。だが、それならそれで自分の出来ることを全うしていけばいい。

己の心にある、正義と共に。
共にある愛していた親友の想いを胸に。

「もっとオモロくて、人望があったら楽やのに。」

今日も現場に鬼が出る。


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あとがき

え、なにこれ
どうもkurokawaでございます。
刑事です。"不器用な五東くん"のスピンオフです。

悪いものの象徴をあえて刑事に乗せるの、オモロいかなあと思いながら。
特徴表で「目つきが悪い」って出て、信用が5になったのもあってそこから鬼になりました。

冷静キャラ作りたかったんすよ。
んでもって、うちに秘めるものはきちんとある鉄板的な。
家族は最近よく聞く感じだったので、親友を犠牲にしてしまって、
最初は男の友情!だけだったのですが、恋愛下手とか考えてたらここかな、と。
いや結ばれない恋がうちの子多くないか?

ちなみにごとうさん、意外にも酒タバコ好き、
そして月が好きです。
月の優しい光を見るたびに、蓮の顔が浮かぶらしい。

同じく刑事キャラで馬門怜士くんがウチにはいます。
彼もクールキャラですが、親がトップ警官だったり妹が誘拐されてたり、その事件のせいで両親が自殺したりと相当闇を抱えて尚且つ、親の権力で色々なってるもう闇しか見えない男でした。
けど年表的には、怜士のバディ役で班長の伊庭さん=五東さん同期で、5つぐらい怜士は歳下ですね。

けど怜士は高卒入りなので歴をいうとややこしい。

と言った感じなので、ある種五東さんの後継者的なところなのかなーと思ってます、怜士くん。
でも五東さんの方がいろんな面で強いかな。不器用具合も強いかな。精神面もそうかな。

怜士くんは妹の件もあるから仕方ないのだけれど。

今回は同卓のキャラも結構混じったと言うか、
ちゃんと踏まえたところも綴ってしまいました。
栖原光に蓮ちゃんの影を思い出していることでしょう。
いや、まさかセッションであんな事態が起こるとはって事があったので、設定がどんどん厚くなって熱くなるんですよね。
またいつか3人で事件解決したいなあと共に、
今回濁した5年前(現在から約10年前)の事件も作りたいのですよね。

そこはきっとくうやの領分なので、わたくしは考察しておくとします。

今回も駄文で失礼いたしました。
ちゃっかり同期な伊庭さんとのやりとりも面白いのいっぱい考えてるのでいつか見たいと思ってます。

ではでは。
kurokawa

kurokawa on Twitter
@TRPG

@Usuke_kurokawa (ID変わりました)

やりたいシナリオ多いけど作りたいシナリオも多いんだわ!

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