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PC spin-off4 "水沢 信祐"

けたたましい轟音が、頭上を通過していく。
今日も空は忙しなかった。

地元は航空基地のそばだった。兄貴はいつもつまらなさそうに、弟の俺共々が父親に連れられてよく基地を見にきていた。飛び立つ機械を眺めては、心揺さぶる浪漫を感じていた。父は「これが俺の自慢なんだ。父さんがいなきゃ空へ飛べないんだ」と口癖のように呟いていた。兄貴は変わらず、その言葉も空に消えてったようだった。

高校まで特に頭を悩ませる素振りすらなく、
特に夢を考えることもなく進んでいた。
それでも進路は問われるもので、「親に迷惑をかけない進路にします」
なんて先生に告げれば、「じゃあ大学にでもいっとけ」と言われてとりあえず進学を目指してみたりした。どうしてか、耳鳴りがする。

高校に上がって、とりあえず中学から続けていた部活はやってみようと思った。
得意なわけでもないバスケ。強豪校でもなかったので、”いい運動”なお遊びに近かった。けれど、ある日後輩から突然にして告白を受けた。
「先輩のコートに立つ姿がかっこよくて・・」
その子のことは知っていた。同じ男子バスケ部の連中がやけに噂していたからだ。
「試合のときも、練習のときもよく見かける」「マネージャー志望らしい」
「挨拶してみたけど真っ直ぐでいい子そうだった」
妄想めいた噂も多く混じっていたが、部室じゃ結構な頻度で耳にしていた。

確かにいい子そうだったし、何より好意が嬉しかったので、俺は彼女と付き合うことにした。
一度別れたりもあったけれど、彼女は生涯忘れられない人になる。胸がざわつく。

こうして彼女”三倉 涼”は後にバスケ部のマネージャーになったりして、
俺はそこそこの青春を謳歌した。無事に大学にも進学した。
彼女は叶えたい夢があった。「いつか上京したいんだ」と、数度呟いていた。
対して相変わらず夢について何も思いつかないでいたまま、
母が事故で急逝した。間も無く兄貴が家を出た。父親と酷く揉めていた。
兄は「この夢が実現すれば、そうすれば悲劇はもう生まれない」などと叫んでいた気がする。あまり覚えていない。この頃浮き足立つような感覚が全身を覆っている。

特に深く考えたわけでもなかったが、この一連の事象で俺は”家業を継ぐ”ものだと自然と考え至った。大学の専攻はあまり関係なかったものの、休み中は父の側で整備士の勉強や指導を受けた。彼女は追って短大に通いだしていたが、あまり休みのない俺相手でも時間が合えば会おうとしてくれたし、心強く支えてくれていたように思う。正直俺には勿体無いとすら思った。

特にその後は大事もなく、卒業後は整備士として勤めた。
しかし、少し経てば父は病気に伏し、一年も経たずしてそのまま母の後を追った。

若造の自分ではその家業も継ぎきれず、已む無く家の工場は畳むこととなった。
ちょうどその頃に彼女は卒業した。これを機に、空っぽの実家もおさらばして彼女と状況を決意した。自分も何か夢を掴めるとどこかで思っていたのだろうか。
地元を発つ前に、彼女に婚約を申し込んだ。

「この先どんな道が待っていても二人らしく乗り越えて、どっちかが躓いてもどっちかが先に行ったって、いつか必ず迎えにくる。そんな相手、俺でいいか?」と聞く。涼は「当たり前。信祐なら、信じられるもん」と返した。信祐は指輪を出して「結婚してください」と続け、「私でいいのなら」と涼が続ける。信祐は照れ臭そうにしながら「当たり前。涼が、良いんだ。」と答えた。

「約束なんて重いからしたくないんだけどな」
ふと口から溢れた。
「婚約って、でもそれこそ・・約束だよ?いいじゃん。二人だけの約束。」
胃が、きりきりした。

東京に出て半年ほど経った頃に、
けたたましい轟音が頭上に響いた。
次に瞬きをした時には見知らぬ場所にいた。
そこには彼女もいた。もう一人、知らないか弱そうな青年もいた。

ここで俺は生涯悔やむ決断をした。せざるを得なかった。

運良く、いや運悪く生きて帰ってきてしまった俺は、
共に帰れなかった彼女を探そうとした。
自暴自棄に陥り、あてもなく彷徨うところの寸前で彼が止めた。
共に帰ってきたあの青年だった。
「勿論、僕も手伝うよ。だけれど、無闇に探しても見つかるとは思えない。だから、その時が来るまで備えよう。きっとその時は来ると思う。どうか、ここは耐えてほしい。きっと彼女もそう願っていると思う・・よ。」

机上で、”操縦士” ”資格” と検索されたままのノートPCの画面がパッと明るんだ。

「夢、そう言えば一つあったんだよな。思い出した。」
「思い出したって・・どんな夢?」
「空。・・飛びたかったんだ。」
「・・・タケコプター?」

あれからしばらく。あの青年とは住居も共にして、仕事などもしながらできることをした。一度、同じような事象が起きたものの、彼女に繋がるような事は一切なかった。しかし、一人の危なっかしいくせに精神科医の女性と、真逆のベクトルで危なっかしい顔に傷のある男と出会った。再び生きて戻る事はできたのだが、どうも双方放っておくには危なっかしかったので、ウチに住まわすことにした。

流石にこの人数だと狭いので、これを機に引っ越すことにした。
まあ、金はあった。実家の分も遺産も十分すぎるほどあった。
このタイミングで自家用機まで・・流石に使いすぎた気がする。

彼女と別れ際に渡された、大切にしていたチョーカー。
俺でもつけられたけど、どうもこれをつけてから少し不思議なことが起きる。
もしかしたら、彼女にたどり着くきっかけになるかもしれないので、甘んじてではあるがこの事象を受け入れようと思う。

・・・いやまさかこんなことになるとは。
夜中の公園で、一人ぼーっとしてる明らかにこの世の終わりを謳歌してそうな青年を見かけた。これもまた流石に放っておけないので、声をかけてみたが気の良さそうな青年ではあった。ただ深い事情はありそうだったのと、行き場がなさそうだったので家に招き入れてみた。たまたま一部屋余っていたし。
最初はぎこちなくいた面々も、能天気なあいつのおかげで打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
全員、色々あったって顔をしていた。あえて聞いたりもしなかった。それがきっとお互い心地よかったんだろう。

その後も色々あった。
正直なところ、もう彼女への道はないのかもしれない、
彼女はもう・・ってどこかで思っている自分もいる。

それでも諦めたくないのは意地なのか、
それとも”約束”の力なのか。
独りじゃない。だから安心して進める。安心して運べる。安心して迎えに行ける。
彼女は強い。彼女は自慢の婚約者だ。もう少しだけ待たせてもきっとまた笑顔で迎えてくれる。全部、俺の都合のいい妄想かもしれないけれど。
いつか「おかえり」も「ただいま」も言えるように。

水沢 信祐


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あとがき

TRPGでキャラメイクする際、
色々余白を持ってセッションに臨むのですが今回は絶妙なバランスでセッションしましたkurokawaです。
というか、自分でもどういった経緯でこうなったんだろうなあ〜がわからないままだったんですね。曖昧っていいね。
今回は整理するように文書を打ち込んでいたのですが、結果的に経緯とかが埋められた気がする。割と違和感なく。
あくまでこれはワタシの妄想上のことなので、きっと違う展開だった可能性も高いんですけどね、サァどうなんだ??w

なんでこの技能持ってんだ?とかも今回埋められたので良かったかも。ぶっちゃけ埋まってないままセッションしてたからね。メンゴ。。

結構ワタクシのPC、人間味なかったりあったり、こじらせてたり、単に馬鹿だったりって感じですが、基本テーマがあったりして。
”青春謳歌!馬鹿万歳!”とか、
”冷静な刑事”とか、”とにかくイケメンになる”とか。
勿論それに縛られないRP(おかげでキャラがうんと変わったり・・)をしますが、今回は・・言うなれば”頼れるお兄さん”になるのかな?

放浪癖、や空への憧れにちなんでちょっと浮き足立つような、
ふわっと助けてくれる感じにしようとは思ってたのですが、周りとのバランスで結構がっつり頼れるお兄さんになった気がしますね。

でもこれは、多分ですが5人同居メンバーで最年長になってしまったからなんだと思います。
信祐自体は結構ふわっとゆるっとお助けしてくれるような人間だったと思うのですが、最年長が故に気が付けばしっかり頼れるお兄さんになっていたのかと。
境遇も相まって”放っておけない”人になったし。でも決して押し付けたりしない。これは親の影響もあったでしょう。いや、末っ子だからかな??wお兄さんは押し付けられて結果出ていっちゃったのかな??この辺は余白。

それにしても良いお兄さんだなあ。救われないと思うけどなぁ。
どこかで継続したいなあと思いつつ、また同居メンバーでできる機会!?なんてなさそうですが、なんかあれば嬉しいよなあ。と思います。これこそオリシ作ればいいんじゃね?ですけど。

それでは。次は京さまかなあ?

kurokawa

kurokawa on Twitter
@TRPG


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