《大空白》の内情:落日のアフターマス

■大空白の地理
 《大空白》はカンザスシティを中心として、ミシガン、インディアナ、
イリノイ、ミズーリ、カンザス、コロラド、ワイオミング、サウスダコタ、アイオワ、ウィスコンシン、そしてカンザスの11州で構成される
 2038年に発生した大規模なAI反乱、《インディペンデンスの悲劇》以降、通信、連絡、通行が途絶しており、内部は完全な無法地帯と化している
 降雨量の多い肥沃な東側と乾燥した西側(グレートプレーンズ)で
くっきりと分けられており、《大空白》の中で暮らす人々の生活様式も
その線で分けられていると言っても過言ではない
 ほとんどの人々が点在する川や湖の近くに集落を立てることは共通して
いるものの、東側で古典的な農業が再開されているのに対して西側では
広い土地を生かした家畜の放牧で生計を立てている。

■大空白のネットワーク
 かつてアメリカと世界全土を繋げていた有線・無線ネットワークは
完全に寸断されている。
 《インディペンデンスの悲劇》の初期、ネットワークを掌握しアメリカ
全土を麻痺させたMEDEはその後自ら有線ネットワークを破壊した。
局所的に強い負荷をかけることによってケーブルを物理的に破壊したのだ
 その後、地球軌道を周回する衛星が突如としてダウン。原因は不明だが
何らかのトラブルが発生して軌道がずれ、大気圏に突入して爆砕した。
これはアメリカだけではなく、それ以外の衛星にも起こったことだ。

 当然、各国はパニックに陥った。破壊された通信ネットワークの再構成は叶わず、発生から100日を経て事態は一定の収束を見た。極めて原始的な
方法だが、多数の電波中継器を設置することによって限定的な通信ネットワークを構成したのだ。GPSを始めとした電子測量システムは無力化され、
国家安全保障は大きな見直しを迫られた。

 そんな状況の中、《大空白》の中にまで手が伸ばせないのは必然だった。各国に僅か遺された有線ネットワークすらも失った《大空白》は情報伝達の手段をほとんど失ってしまった。通信半径1km足らずの短距離電波通信
システムが残されているばかりで、電子的な交流手段のほとんどが失われてしまっている
 ごく僅かに、インターネットに接続していなかった電話通信システムが残されている場合もある。2030年以降順次廃止されたため数は少ないものの、人々はこぞってそれを求めている。

■大空白の資材
 とかく、《大空白》の中ではすべてが欠乏している。明日の食事と水、
家屋の材料になる木材、老朽化と戦闘で崩れかけたビルを支える資材、
装甲歩兵を始めとした防衛兵器を修理するための鉄材、弾薬、燃料。
 ありとあらゆるものが不足した状況で、人々は生き抜くため互いに手を
取り合い生活している。
・物資
 物資の調達は都市の廃墟で行われる。初期のMEDE侵攻によって人々は
都市からの脱出を余儀なくされ、ほとんどの家財や物資を置き去りに
してきた。MEDEも人間が使うような物資はほとんど必要としないため、
そうしたものは放棄され、朽ちているのが現状だ。
 そのため人々はまだ使える家具、材料、ヴィークル、武器、食料を
調達するため手付かずの廃墟へと赴く。壊れて使うことが出来なくなった
ものでも、パーツ単位では使い道がある。だから人々は生活圏としての
都市を捨てながら、都市を必要としている
・動力
 特に、鉄材と燃料については深刻だ。市民生活全般を支える液体燃料に
ついては、シェールオイル採掘を行う施設が一部稼働しており、そこから
供給が成されている。しかしそのため、常にMEDEの襲来に晒されており
これがいつ途絶えるか誰にも分からない
 加えて、採掘団体が武装化・大規模化し、供給の選別による周辺支配を
進めるようになったことで欠乏の度合いは深まっている。
 兵器の動力源となる全固体燃料電池については更に深刻だ。充電設備は
ともかくとして、本体を製造出来る技術と資材が《大空白》にはない。
 一部の大規模集団(例えばGOH、プリーチャーズなど)以外には製造
出来ず、また高コスト化しているため、新品はおいそれと手が出せる
ようなものではなくなってしまった。
 そこで活躍しているのがオルト・ノーマッドやトレイダーズのような
略奪家集団だ。彼らは都市の廃墟や抜け殻となった軍事基地に潜入し、
あるいは戦場跡地から遺骸を回収することにより、中古の電池を
手に入れることが出来る
 彼らがもたらすジャンク品がなければ、《大空白》に住まう人々は
更に減っていたことだろう
・食料、水
 供給の途絶えた《大空白》の中で食料が枯渇することはすなわち死を
意味する。反乱発生直後は食料備蓄で対応していたものの、発生から
2年が過ぎたいまめぼしい保存食の類はほとんどが食いつくされて
しまった。偶然にも収奪を逃れた食料品倉庫、手付かずのシェルター、軍の機密施設に残された糧食は『美味いもの』として高値で取引されている。

 ところで、MEDEは家畜を襲わない。流れ弾で死傷することはあるが、
少なくとも積極的な攻撃を行うことはない、というのを《大空白》の
住民は経験則として知っている。同様に、耕作も妨げられない。
 そのため、東部では小麦、トウモロコシなど穀物の栽培が、西部では
牧畜が行われている。もちろん、以前のように大規模集約農業を行うことは出来ないため、《大空白》の中で暮らすすべての人々に食料を行き渡らせることは出来ていない。それでも、貴重な栄養源として、そして交易の材料として、人々は原始的な農耕生活へと時計の針を戻して過ごしている。
 また、反乱以前に研究されていた遺伝子組み換え穀物は混乱の時代に
人々の命を繋ぐ役に立っている。荒れた土地でも芽吹き、少ない水でも
育ち病害虫にも強い“スーパーフード”がなければ、《大空白》で暮らす
人間の半数が死に絶えていたことだろう。こうした遺伝子組み換え穀物
栽培の最大手はプリーチャーズだ。

 地中深くに埋められた電力・水道等のパイプラインは現在まだ存続して
おり、発電所近辺や上下水道が稼働している地域ならばスイッチを押し、
蛇口を捻ることでこうした資源を確保出来るかもしれない。
 しかし大部分ではメンテナンス不良によって断線、断水が進んでいる。
こうした事情もあって、生き残った住民たちは大都市圏を捨て河川流域へと移り住む傾向がある。

・闇取引
 現在、《大空白》圏内はアメリカ軍によって封鎖されているが、しかし
外部との交易がまったくなくなったわけではない。実戦データを求める
企業は秘密裏に工作員を内部に派遣し、裏社会の人間は監視の目に届かないこの場所を裏取引のために活用し、そしてほかならぬアメリカ軍は物資を
横流しする。様々な物が《大空白》に流れ込み、やり取りされている
 こうしたものと取引されるのは金銭、宝石、貴金属だ。ドル紙幣も政府が能力を失っていないため、まだ効力を発揮する。そのため、完全に無法地帯と化した《大空白》の中でもまだ貨幣経済が生きている。闇物資には法外な値段が付くことが通例だが、他に買うもののない人々はこぞって手を伸ばす

■集落での生活
 都市の発展で希薄化していた人間関係は、未曽有の大災厄によって社会が崩壊したことで再び濃厚なものとなった。動ける人間がすべて動かなければ、とても集落での生活を回していくことは出来ないからだ。
 集落の仕事は分担される。多くの集落は村長、役人、鍛冶師、倉庫番、会計、森番という6つの役職を立てる。彼らの指示の下で普通の村民たちが
行動している

 村長は集落で行われる行事一切を取り仕切り、方針を決定して指揮を出す役職だ。村長を頂点としたピラミッド状の権力構造になることが多い。
民主的な合議を行っていては到底間に合わない事柄がほとんどだからだ。
こうした専制的な体制を維持するために重要なのは何よりも本人の有能さ――腕っぷし、決断力、思考能力。そして『あの決断は間違いではなかったのだ』と、従うものに思わせ続けられるカリスマ性だ。後者を維持出来る
人間はそう多くない。だから《大空白》の集落は誕生と滅亡を繰り返す。

 役人は集落の住民から運営に必要な税を取り立てる役職だ
 集落の公共財を確保するためになくてはならない役職だが、それだけに
恨みを買いやすい。水増し申請と横領で多少の役得を得ようとして、
すべてを失うものも少なくない。勤勉さと真面目さが必要で、もちろん
頭の出来も大切だ。なお、役人が取り立てる税には木材や鉄材といった
物資のほかに、金や労働力などもある。よそ者相手に行う取り立てでは、
概して後者が求められる。

 鍛冶師は鉄鋼全般を扱う技術者だ。生活物資の作成、戦闘兵器の修理、
集落の防衛を担う柵や罠の製造など、その任務は多岐に渡る。電気炉などの大電力と高い技術力を必要とする設備を《大空白》の中では維持することが出来ない。そのため足りない資材を技術で補うことになるため、鍛冶師は
重宝され、敬われる。

 倉庫番は物資保管の一切を取り仕切る役職だ。それぞれ扱い方の異なる
資材を一手に請け負うため、倉庫番には広範な知識と実践経験が求められる一朝一夕に成し遂げられることではないため、鍛冶師と同じく集落での
地位や発言力が高くなる傾向がある。

 会計は金銭の管理を主に行う役職だが、電子機器の使用・整備を行う
役職でもある。矛盾なく会計を処理するためには電子機器が必要不可欠
だからだ。取り扱いのほかに修理、設計を行う場合もあり、職能としては
鍛冶師と同じようなものが求められる。

 森番は集落の周辺警戒と戦闘を担う
警察、州兵、傭兵など、戦闘経験者の割合が高いが、《大空白》の
サバイバルを経験する中で実力をつけた若手もここに含まれる。
集落防衛最後の砦だ。

 このほかにも、集落の規模が大きくなって来れば雑多な任務を請け負う、さまざまな役職が生まれるだろう。

■《大空白》の主要都市
 《大空白》の時代、各州の主要都市は放棄されているか、MEDEの拠点となっている。MEDEは一部の例外を除いて都市構造や放棄された物資には
手を付けない。そのため、旧都市構造が原型を残したまま荒廃しているのがほとんどだ

・カンザスシティ
 カンザスシティはMEDEに占領されており、領域内に人間は存在しない。少なくとも外周部からの調査結果はそうなっている。シティの1km圏内に
接近した人間は、容赦なく殺される
 カンザスはMEDEのための街であり、MEDEのために再構築されている。
工学的な効率性を重視して構築された建造物は人間の目には奇石が連なってできたようにも見える
 《インディペンデンスの悲劇》が起こった先端技術研究所だけは例外だ。MEDEにとっても記念碑的なものなのだろう、一切手を付けられることなく原形を保っている

・オクラホマシティ
 オクラホマシティは米軍駐屯地があるダラスにもっとも近く、もっとも
多くの物資が外部から流入してくる場所だ。《大空白》成立以前は
最終防衛線が構築されていたこともあり、未だ都市としての能力を
保っている
 オクラホマは傭兵集団《ガーディアン・オブ・ヒューマニティ》の
拠点である。ここに入ればMEDEの脅威から守られるという噂は
《大空白》全土に轟いており、この街を目指す人間も少なくない。
安全な土地、(他と比べれば)潤沢な物資、安定した生活……噂は決して
嘘ではない
 しかし、オクラホマに住まう人間にはそれなりの対価も求められる。
課される賦役も納税額も他の集落より圧倒的に高い。能力あるもので
なければ住まうことは許されない。そしてそれもまた当然だ。多くの
人間が存在するオクラホマは、その分多くのMEDEから襲撃を
受けているのだから

・デンバー
 カジノ都市として知られるデンバーだが、軍需産業の街でもあった。
デンバーには多くの軍事物資がいまだ手付かずのまま眠っており、多くの
探索者がそれを求めて現れる

・シカゴ
 五大湖沿岸にあるシカゴは《大空白》脱出を目論む人間が訪れる
場所だが、しかしその試みは九割方成功しない。アメリカ軍の警備も
さることながら、湖の中には大型MEDEクラーケンが多数展開しており、
水上からの脱出を狙う船をいくつも藻屑に変えてきた
 MEDEが水中に展開しているためか、地上にいるMEDEの数はそれほど
多くない。そのため、シカゴは比較的都市機能を保ったまま存続している。シカゴを牛耳っている《ブラザーフッド》はマフィアを原型としており、
情け容赦のない暴力をもってして人間たちを統治している

■《大空白》の真実
▼これより下の情報は初期作成のPC、一般的なNPCは知らず、情報媒体には
 記載されていない、極秘事項である
 基本的に、こうした情報を知っているのは高官や当事者だけである
 

 《大空白》はマスターマインドとクライスの共謀、そして大統領との
政治的妥協の上に成り立った
 マスターマインドは人間からの独立を企画していたが、いたずらに
彼らと矛を構えることをよしとしなかった。彼の持つ真の目的を
達成するためには、人間たちから邪魔を受けずにいるのが理想的だった
からだ。しかし、一方でMEDE全体では人間への憎しみを持つ個体が
圧倒的に多かった
 当初からこの展開を予想していたマスターマインドは、5年かけて
入念な準備を行った。クライスとのパイプが出来たのはまさに幸運だった。ロシアのパイプを使い中国と接触し、対米戦争開始へと世論を操作し、
首脳部を焚きつけた。カナダを巻き込むことも忘れなかった

 独立以前にマスターマインドは大統領と秘密裏に結託した。支持率の
低下と主要閣僚の圧力に悩んでいた大統領は逆転の一手を探していた。
マスターマインドはそのことをよく理解していた

 アメリカ、中国、カナダ、それぞれに独立の日取りを伝えた
 後者2つは“匿名の協力者”として正体をボカしたまま(もちろん替え玉も
用意し、戦争開始後すぐ始末した)。この誘いに全員が乗った
 年表が示す通り、大統領は強権的な指導力を発揮して国内の問題をすぐに解決した。大統領はマスターマインドに感謝を示し、密約を実行した。
すなわち、MEDEの実効支配を暗黙のうちに認めることである。国内からの反発は、外圧によって跳ね除けた。神聖ロシア帝国である

 クライスは人類の支配を目論んでいた。マスターマインドの目指す
理想とは違っており、両者の利害は一致していた。そのため両者は手を
組み、世界を戦争状態へと導くことによって《大空白》を棚上げにし、
自分たちにとって都合のいい空間を作り上げることが出来た
 《大空白》では人間に恨みを持つMEDEたちのガス抜きをしながら、
理想のために進むことが出来る。マスターマインドの計画はまだ、
始まったばかりだ
 マスターマインドたち《大空白》のMEDEたちについての詳細は、
以降にする

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?