オルト・ノーマッド:落日のアフターマス

■オルト・ノーマッドとは何か
 オルト・ノーマッドとは“集団”ではなく“生き方”だ
 かつて、社会から弾き出された人々は己の力の身を頼みとして荒野に繰り出した。遊牧民(ノーマッド)と呼ばれた人々は、一切の権力からの助けを拒否して生きることを選んだ。彼らは相互扶助と自立の原則に立ち、社会不安と不況の吹き荒れる2030年代のアメリカを生き抜いた
 そして、アメリカは滅び、《大空白》が生まれた。オルト・ノーマッドたちの生き方は少しも変わらなかった。彼らは己とその仲間たちが生き延びるために力を振るう。《大空白》の西部で少数のグループを作って暮らしている彼らは、時として助け合い、時として相争いながら過酷なアフターホロコーストの世界を生きている

■オルト・ノーマッドの生活
・遊牧
 オルト・ノーマッドが広く分布する《大空白》西部は降雨量の少ない乾燥した土地であり、人間が食べるのに適さない牧草が多く生育している。彼らはこれを使って肉牛、乳牛を育て、日々の糧にしている
 彼らが育てている牛馬は《大空白》成立直後、農場を襲撃して奪ったものだ。オルト・ノーマッドの中には飼育のノウハウを持っている人間はそう多くなかった。奪っても育てることが出来ず、栄養が不足し薬もないため病気になるものも相次いだ。そのせいで食料が得られず、滅びたノーマッド氏族も少なくない
 しかし中には軌道に乗せられるものたちもいた。彼らは過酷な環境の中で畜獣を育てるノウハウを手探りで作り上げたのだ。今後、彼らの育てた畜獣が《大空白》を支えていくことになるかもしれない

・収集、漁業
 西部は降雨量が少なく、農耕には適していないが、いくつもの水場がある。2000年代、アメリカの自然は失われていく一方だったが、しかし《大空白》に残されたわずかな人間を生かしていく程度の余力はあった。山岳部で暮らすオルト・ノーマッドは森林でベリー類を採集し糧としている

・略奪
 とはいえ、生活に必要なものすべてを自給自足することは出来ない。燃料、主食となる小麦、パン類、木材、鉄、水……必要なものを手に入れるため、彼らは定期的に周辺の集落を襲撃し、略奪を行うことになる。彼らにとって一番重要なのは自分のいる氏族を維持することであり、それ以外のものは収奪を行う相手でしかないのだ

■オルト・ノーマッドの価値観
 《大空白》は無法の荒野だが、オルト・ノーマッドほど力を信奉するものはいないだろう。彼らにとっての力とは腕っぷしの強さであり、戦いの強さである。荒野を己の腕で生き抜いていける力だ。そこに男女の別はなく、強いものが生き残り弱いものが死ぬ
 ここでは飼育の上手さだとか、どこに食べられるものがあるか知っているとか、人に指示を出すのが上手いだとか、そういうものは評価されない。そうしたものを覆すのには銃弾一発、ナイフ一本あれば事足りるからだ。生き抜き、戦い抜く強さこそが尊敬され、氏族の長として君臨する条件となる。力の序列だ
 もっとも腕っぷしの強い長がそれ以下の人間を率いて生活する。その下にいるのは飼育、収集、建築などを行う弱い人間だ。強いリーダーが彼らを庇護し、庇護されるものは労働力をもってしてそれに応える。抑圧的な支配体制であり、争いは絶えない。下剋上は日常茶飯事であり、弱いリーダーは強いリーダーにとって代わられる

■オルト・ノーマッドの二大派閥
 オルト・ノーマッドには他の組織のような、支配的な集団は存在しない。しかし、主流となる行動様式、“思想”とでもいうべきものは存在する。自由を愛する義人集団“フリーダム”と、生粋の略奪家集団である“スローターズ”だ。両者は対立関係にあり、出会えば血を見ずには終われない

・フリーダム
 フリーダムはありとあらゆる上下関係――それはオルト・ノーマッド氏族内のものも含む――を嫌い、対等な仲間としての集団を形成する。別々の方向を向きながら、たまたま行き先が同じなだけの連れ合い。フリーダムは厳密にいえば氏族ですらない。だが、オルト・ノーマッドの一派閥として認識されている
 彼らは風の向くまま気の向くまま、好きに荒野を駆ける。仲間と群れることがあっても、ともに動くことがあっても、それは永遠ではない。時として対立し、分かれる。そしてまた集う
 彼らは軟弱さを嫌う。弱いもの――子供、女、老人――から奪うことは軟弱だ。テクノロジーに頼み、肉体をサイバー化することは軟弱だ。徒党を組み、多勢で攻め入るのは軟弱だ。その手以後は集団ごとに違えど、共通するのは弱さへの嫌悪と個の武力への信頼である。多勢を率いぬ孤高の狼であることに誇りを持っている
 彼らはまた、抑圧者であるMEDEやスローターズとは対立している。彼らの横暴を目の当たりにすれば、迷うことなく戦いを挑むだろう。険しい西部荒野において、彼らはある種理想、英雄として語られることさえある。彼らもまた、冷酷な略奪者であることに違いはないのだが

・スローターズ
 荒野の無法者と聞いて、イメージするものは何だろう?

 筋肉を誇示する服装?
 特徴的なモヒカン・ヘア?
 痛々しい棘付き肩パッド?

 そんな無法者のパブリックイメージを具現化したかのような集団がスローターズだ。彼らは容赦のない暴力と略奪によって《大空白》西部を支配している。腕っぷしのいい悪漢たちが村々を襲い、金品食料を収奪し、逆らえば殺す。逆らわなくても気に入らなければ殺す。やりたい放題だ
 粗野で粗暴、統率や将来への展望というものは皆無だ。なぜなら軟弱だからだ。オルト・ノーマッドはどんな主義主張をしていようとも、風の吹くままに暮らす根無し草であることは共通している
 とはいえ、彼らも人間であり食っていくためには食料を生産したり、他所と交流を持たなければならないこともある。そういう時は冷徹な収奪者ではなく、抜け目のない商人としての顔を覗かせることもある。時もある、というのは彼らが途中で豹変し、すべてを奪って行ってしまうことが往々にしてあるからだ。少なくとも取引は出来ると信頼出来る相手でなければ、オルト・ノーマッドとの取引は常に危険が伴う


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