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放て、紅蓮無双百連撃

「校長先生、失礼します」

「また君か……。いい加減にしてくれないか」

「僕は諦めません。校長先生が認めるまで、何度でもこの校長室を訪ねます」

「だから、あれは君の思い過ごしだと何度も言っているだろう」

「そんなはずはありません、何故そうやって有耶無耶にして逃げるんですか」

「君ね、逃げるとか逃げないとかそういう子供じみた事言ってないで教室に帰りなさい。君が言ってるのはただの勘違い、いや、くだらない妄想だ」

「そうですか……。どうしても認めてくれないんですね……」

「認めるわけないだろう」

「わかりました。それでは僕も然るべき措置を講じます」

「なんだ、然るべき措置ってのは」

「教育委員会にこの事をすべてお話します」

「……なんだと?」

「おや、顔色が変わりましたね。ただの僕の勘違いだというのなら別に問題ないでしょう」

「君、馬鹿なことはやめろ」

「いいえ、それは出来ません」

「いや、やめておけって」

「そこまで必死になるという事は、やはり僕の仮説は正しかった、という事ですね?」


「だから、何度も言ってるだろう!!この学校は巨大ロボに変形しない!!


「嘘だ、変形するに決まっている。そして、それを操縦するのが僕の夢だ」

「もう、なんなのこいつ、マジで。毎日毎日」

「何度も説明しましたが、あの都庁が有事の際に巨大ロボに変形するというのは、あまりにも有名ですよね?」

「もう、その段階で間違ってんだよ」

「そして、この学校はあの都庁をモチーフにした設計で作られている」

「たまたまちょっと似ただけだろ」

「よって、そこから導き出される答えは……、この学校も巨大ロボに変形するという事です!!」

「いや、なんか頭良いキャラがやる解説っぽく喋ってるけど完全にやばいからな、君」

「まだ認めないのですね、さっきは教育委員会の名前を出しただけであんなに狼狽えていたというのに」

「そりゃ、うちに君みたいな生徒が居るという事が知られたら恥ずかしいからだよ」

「ふん、馬鹿げた言い分だ」

「君にだけは言われたくないよ」

「校長先生、もう終わりにしましょう。今日は動かない証拠を四つ持ってきました」

「四つもあるのかよ……。長くなりそうだな。この後、会議なんだけど」

「まずは一つ目です。これをご覧ください」

「なんだ、これは」

「ネジです。中庭に落ちていました。これはロボットの部品ですね?」

「いよいよやべーな、こいつ」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないよ」

「これ一つで証拠としては十分でしょうがね」

「どこがだよ。こんなもん、よく落ちてるだろう」

「認めませんか。まぁ想定内です。では、二つ目といきましょう。これをご覧ください」

「なんだ、この紙は?」

「僕が考えた巨大ロボの必殺技一覧です」

「帰れよ、もう」

「ちなみに、この一番下の“紅蓮無双百連撃”は体力ゲージが点滅してるときにだけ出せる超必殺で、他に比べても威力が桁違いです」

「知らないよ。あと技名が痛いし、そもそも証拠でもないしね。これ」

「これで悪の組織もこわくないですね」

「全然話を聞いてもらえてないな。で、三つ目は?早く終わらせて会議に行きたいんだけど」

「三つ目は、あったけど忘れました」

「夏休みの宿題を忘れたときの言い訳か」

「なので、証拠としては、今のところ実質二つですね」

「実質一つもないよ」

「しかし、この最後のを見たらそうも言ってられないでしょう」

「これは……手紙?」

「読んでください」

「えー、なになに?」

いつもいつも、僕の相手をしてくれてありがとうございます。
僕には友達がいません。「変なやつ」とクラスでも馬鹿にされています。
そんな僕にも先生は正面から叱ってくれました。相手になってくれました。僕はこの学校に入学できて、先生に出会えて本当に幸せです。
六年二組 鈴木

「校長先生、読んでもらえましたか?」

「……読んだ。読んだよ。私は今、猛烈に反省している。君のような素直になれない生徒を無碍に扱ってしまった事を、だ」

「校長先生」

「すまなかった、またいつでも遊びにおいで。鈴木君」

「僕は鈴木ではありません。小室です」

「は?」

「これは中庭に落ちていた手紙です。これもロボットの部品ですね?」

「ちょっと担任の先生の名前教えてくれる?今から呼んで説教するから」

「嫌です」

「じゃあ、親御さんに連絡するからご自宅の連絡先を教えなさい」

「嫌です。関係のない担任や親の話をしている場合じゃない。時間の無駄だ」

「こっちの台詞だよ。これマジで時間の無駄だよ……ん?地震か?」

「本当ですね。しかもけっこう大き……!?校長先生!!あれ!!」

「どうしたんだ、窓の外なんか指さして……!?なにぃ!?ば、馬鹿な!!なんという事だ!!あの言い伝えは本当だったのか!?」

「校長先生!!なんですか、あれは!?学校の裏山から巨大な何かが出てきてこちらに向かってきています!!」

「あれは、この地に古くから伝わる言い伝えに出てくる、古代の巨大破壊兵器“トコトン・コワスンダ”…。なんという事だ。やむを得ん…。小室君」

「は、はい」

「もう隠し通せないので正直に言おう。君の推測は当たっている。この学校は巨大ロボ“ガッコーンV”に変形するのだ!!」

「な、名前がダサい……!」

「今すぐに変形をし、あれと戦わなければならない。はっきり言って、これは世界の危機だ」

「すごい!夢にまで見た展開だ!」

「浮かれている場合ではないぞ。操縦方法は、代々校長を務める人間にしか言い伝えられていない。しかし、今の私にはそれが難しい。膝に水が溜まっているからな」

「意外と現実的な理由だった!……と、いうことは?」

「そう、君が操縦するんだ、小室君。私が横で操縦方法を教えながらだが、仕方あるまい」

「ひゃっほーい!!待ってました!!」

「すぐにその校長室のふかふかの椅子に、いや、操縦席に座るんだ!!準備はいいか!?いくぞ!!ガッコーンV、出撃!!」

「小室!!いっきまーす!!」

「あとはそっちのレバーをこうやって、こっちのボタンをこうやりなさい!!そしたら完璧に操縦できる!!」

「超おざなり!!でもありがとうざいます!!やります!!」

「それから、大切なことを言い忘れていた。このガッコーンVを操縦することによって君は今までの日常を幾つか犠牲にしなくてはならない」

「えっ、ズルくない?このタイミングで……。まぁでも、大丈夫です!!ここまで来て引き下がれません!!何故なら僕は、僕はガッコーンVのパイロット、小室ケンジです!!」

「よく言った、小室君。些細な問題ではあるが、主に四つの犠牲が考えられる。一つ目は、シャンプーの泡立ちがイマイチになる」

「マジで些細だな!!わかりました!!大丈夫です!!」

「そして二つ目は、お母さんが晩ご飯で魚を出してくる率が上がる」

「くっ……!!お肉の日が少なくなるという事か……!!」

「三つ目は、クラスで四番目に好きな女子となんとなくいい感じになる」

「四番目という事は、チョークの粉でお化粧をして先生に怒られた吉田さんか!!ぐぅうおおおお!!全然本命じゃないけど、仕方が無い!!さよなら!!ゆみちゃん、かなちゃん、福田さん!!」

「そして、四つ目は、あったけど忘れました」

「夏休みの宿題を忘れたときの言い訳か」

「ああっ!!そうこうしているうちに体力ゲージが減りに減って点滅しているぞ!!何やってんだ、馬鹿!!この下手糞が!!やる気ねーなら帰れ!!」

「いや、初日なんですけど、僕。いきなり厳しすぎない?ブラック企業か」

「すまない、言い過ぎた!!しかし小室君、今の君ならできる!!ピンチはチャンスだ!!」

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「そうだ!!放て!!」

『 紅 蓮 無 双 百 連 撃 ! ! ! ! 』



「……むろ君!!小室君!!」

「はっ、校長先生。僕は一体……」

「よかった。目が覚めたか、小室君。君は気を失っていたのだ」

「学校が元に戻っている……」

「ああ、ひとまず戦いは終わった。君のおかげで世界は救われたのだ」

「校長先生、僕はトコトン・コワスンダに勝てたのですね。僕が考えた超必殺、紅蓮無双百連撃で」

「ああ、そうだ。初日にしては悪くなかったぞ。しかし、戦いは始まったばかりだ」

「えっ?どういうことですか?倒したんじゃないんですか?僕が考えた超必殺、紅蓮無双百連撃で」

「うるさいな。何度も何度も。その技名言いたいだけだろ、君」

「寝ずに辞書を引いて考えたし、すごく気に入っているので……」

「トコトン・コワスンダは日本各地に潜んでいる。どうもあの破壊兵器を裏で操っている組織もありそうだ。そして、今回の件が原因で奴らはこのガッコーンVを真っ先に狙ってやってくるだろう」

「望むところですよ。校長先生。僕は戦います、どこででも、誰とでもね」

「心強いな、小室君。君だけが頼りだ。共に世界を救おう」

「はい、校長先生!!」

「さっそく明日から特訓だ!!ところで、変形のやり方は覚えているかな?」

「やったけど忘れました」

「夏休みの宿題を忘れたときの言い訳か」




お金は好きです。