入口はフラット〜美術館さんぽ8/12〜
好きなことをしようと決めていた。
早々に家事をやっつけ、電車に乗り込む。
雨上がりに、わっとセミが鳴きだした。
上野に降り立ったのは4月末の「空也上人と六波羅蜜寺展」以来。
知らぬ間に公園口が便利になっていた。
信号を渡らずに美術館に行ける!
改札を出たところにある短い横断歩道がネックだった。狭いスベースに溜まる人。
それがないだけで滑らかに歩くことができる。障害者用の乗降場もできており、バリアフリー。
なにはともあれ国立西洋美術館へ。
今年4月に再開館した記念展
「自然と人とのダイアローグ」。
6月はじめに開催されたのに、真夏の来訪になってしまった。
混雑を覚悟して、何とか10時前に滑り込む。
本展は、国立西洋美術館とドイツのフォルクヴァング美術館との共同企画。
両舘は個人のコレクションを地域の人々に見てもらおうと設立されたらしい。
独り占めせず共有する、おおらかな心意気。
そこが共通点だという。
「自然と人」をテーマにした4章構成。
なにしろ展示作品は100点を超えるので、
見ごたえは十分。
タイトルの「ダイアローグ」とは「対話」のこと。
自然と芸術家が対話する。
作品と鑑賞者が対話する。
それに倣って、作品の向こう側を見つめるようにして場内を歩いた。
作品に近い白壁に、作者の言葉が書かれている。
作品はもちろんだけど、要所要所にある言葉たちに惹かれた。
言葉をかみしめてから作品を観ると味わいが増す。
ひとくちに自然と言っても掴みきれないイメージがある。
脅威、希望、癒し…時折フレームを越えて広がっていく感じ。
最も印象に残ったのは
アクセリ・ガッレン=カッレラ
《ケイテレ湖》。
たゆたう水面に空と雲が映り込む。
かすかに聞こえる水音や、その匂いまで伝わってきた。
調べてみたらフィンランド中部にある湖で、国内で9番目の面積を誇るらしい。
近くから遠くから見る位置を変えて楽しみ、出口付近まで進んだ後で引き返したほどだ。
まるで目の前に湖があるように、心が落ち着いた。
ずっと見ていたいくらいに。
ついでに「湖ってどうやってできるんだっけ?」という疑問も生まれ、夏休みの宿題のように調べてみた。
ゲルハルト・リヒター《雲》は写真と見間違うほど。写真に基づいたフォトペインティングという技法で描かれている。
こちらも足を止めて見入った。
すぐそこに迫ってくるような、雲。
空や雲、木々の緑、注ぎ込む光、そこに集う人たち…
自然をとらえる眼はこんなにも豊かだ。
見る側にも多彩な響きをもたらす。
両館は同じ作家を所有していることも多く、
本展で見比べる楽しみもあった。
まさに共演。
建物の外へ出て、肌に感じた太陽の熱と
広がる空。
どこか違う感覚を味わったのは私だけではないはずだ。
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