気まぐれ日記2020.10.15
【職業病】
葬儀あるいは葬式とは、人の死を弔うために行われる祭儀、葬制の一部の事である。(Wikipedia)
私は葬儀社に入社して23年目になる。
20年前はまだ自宅葬儀も一般的で、参列者も今より多く規模も大きかった。
現在は、核家族化が進み縮小の一途を辿っている。
「家族葬」「直葬」という言葉が広まり始めてからは、さらに加速していた。そこにコロナ禍。
明治29年創業の当社。歴史は古く、昔はああだった、こうだった。という話を先輩方からよく聞く。
大きければいいわけではないし、義理での参列は今も昔も変わらず多いだろう。自宅で葬儀をしても式場やお寺で葬儀をしても、葬儀の本質は変わるわけではない。
家族葬が増えてから「もう少しちゃんと送ってあげればよかった。家族だけで済まさず、お知らせをしておけばよかった」などの声を多く聞くようになった。
家族も知らない故人の付き合いもあるからだ。
葬儀の担当者としては、お客様の経済状況を踏まえた上で故人や遺族の希望、そして宗教者の意見を伺いながら葬儀場所や内容を決めていく。
火葬と葬儀が一連の流れとなっているので、結婚式など他の行事とは大きく異なり、時間的余裕はない。
おおまかな打合せは2~3時間。心の準備が出来ていた遺族の場合、話はトントン進んで行くが、予想外に早く亡くなってしまった場合、普通に振舞っているようでも精神的な動揺は大きく、考えているようで考えられない場合がほとんど。
中には喪主となるべき人が体調を崩してしまったり、全く話が噛み合わず話をまとめるまで苦労する場合もある。醜い争いが始まってしまうこともしばしば。
葬儀社の役割としては、どれだけご遺族の心に寄り添い心残りのない葬儀のお手伝いができるかというのが大きなポイントになる。
当社では、現場の社員に「葬祭ディレクター」という試験を受けてもらっている。葬祭業に従事する人々の知識・技能の向上を図り、併せて社会的地位向上を図ることを目的としている厚労省認定の技能試験だ。
私は現場ではないが「ただ長く勤めている」という理由だけで受けることになってしまった。
10年以上前のことだ。
試験は5項目ある。
①学科
②幕張
③接遇
④司会
⑤実技筆記
筆記問題の内容は、手続きや法律的なこと、一般常識的な問題が中心に出される。地域の慣習も大きく違うし、儀式的(宗教的)なことを試験問題にするのは難しいのだろう。出るとしても基本的なものばかり。
葬儀に携わる者の教科書的な存在として碑文谷創氏著の「葬儀概論」がある。
ここでは10章に亘って解説されている。
【葬儀概論】 碑文谷 創
第1章 葬儀の意味
第2章 葬儀の歴史
第3章 死とその環境
第4章 葬儀の実際
第5章 葬儀の知識
第6章 社葬、団体葬
第7章 日本の宗教の概要
第8章 宗教儀礼
第9章 葬祭サービスと葬祭ディレクター
第10章 関連法規とその解説
碑文谷創 事務所
https://hajime-himonya.com/?p=1566
第1章の「葬儀はなぜするのか」の項目には5つの役割が書いてある。
①社会的な処理
社会にその人の死を通知する。死亡届を提出し戸籍から抹消すると共に、相続などの手続きをする。
②遺体の処理
死者の尊厳を守るためにも、土に埋めたり火葬するなどの処理が必要となる。見える形でのお別れとなる。
③霊の処理
故人の霊を「この世」(現世・此岸)から「あの世」(来世・彼岸)に送り出す必要がある。あの世での幸せを祈ると同時に、死者と遺された者との間に新たな関係を作り上げる。これが宗教的な儀礼による葬儀式の中心をなすものになる。
④悲観の処理
人の死は周囲の人に衝撃、悲しみ、心の痛みをもたらす。死の事実を受け入れられないこともある。
臨終から通夜、葬儀など時間をかけ受容していく。この期間は個々で異なるので、周りが決めるものではない。
⑤さまざまな感情の処理
社会心理的な役割のこと。昔は人の死が新たな死を招く祟りのようなものではないかと恐れたりしてきた。
こうした恐怖感を和らげるために死者の霊を哀惜する儀礼が要請されてきた。
どんないのちも重い
葬儀を行うということは、人の生と死が重く、大切なものであるということを意味している。
どんな形であれ、心から送り出してあげることが最も重要なこととなる。
当社では葬儀概論が全社員に貸与されるので、私も受験前に何度も読み返した。
この本の中で興味深く印象に残っているのは、クオリティ・オブ・ライフとグリーフケアについて。
クオリティ・オブ・ライフとは、「生活の質」のことで、ここでは「最期を迎える際の生命の質」について述べている。本人とその近親者が最期の時をどうやって迎えることができるかを大切に考え、よりよい別れをどうもつかを重視した考えである。それには本人はもちろん、家族への精神的ケアが大切となる。
グリーフケアとは「グリーフ=悲しみ」をサポートすること。死別の悲観は抑制したり、避けたりするのではなく、表出し悲しむことによって癒されていく。うまく表出できなかったりすると、体調を崩したり精神的な疾患を引き起こすこともある。
遺族のグリーフワーク(悲しみの営み)は必要なことだと理解し、心や想いに寄り添いながらも邪魔しないようにすることが周囲の人にできるグリーフケアとなる。
死別受容までの心理的プロセス
キューブラー・ロス(1926-2004)によって、深い愛情関係で結ばれていた家族などが、突然の死と対面した時の心理的プロセスを研究した結果がある。
【死と対面した時の心理的プロセス】
第1段階 衝撃
↓
第2段階 否認
↓
第3段階 パニックや怒り
↓
第4段階 抑鬱と精神的混乱
↓
第5段階 死別の受容
このように、多くの人が死と対面した時に様々な精神状態を経て受容していくことがわかる。
大切な人との死別は心を揺り動かすほどの大変な出来事であって、グリーフに陥ることは自然で人間的な感情であるということだ。
強い悲観に陥っている人へのケア(サポート)にマニュアルはない。ただ、側にいてあげる、話を聞いてあげるなど心に寄り添うことで時間をかけながらも死の受容がなされていく。
私達葬儀社の仕事は、悲しみの営みの中にいるお客様の不安に応え、悲しみに集中してもらうため事務手続きや葬儀の手伝いをするということに尽きる。
今日はなぜだか急に、こんなことを書きたくなってしまった。仕事が休みなのに葬儀の事で頭が一杯だ。
23年も携われば職業病にもなるか。
さて、今日もにゃんこに遊んでもらおう。
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