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夜長月に想う

「日本の四季から秋は失くなってしまった」
と近年よく聞く。

桜が散り、花粉症も治まらないうちから目眩の
するような暑さが続き、涼しくなったかと思えばあっという間に息が白くなる。

それでも暦上の秋になれば、近所のスーパーには焼き芋が陳列され、食卓には秋刀魚が並ぶ。
世の中に"秋"という概念はまだ存在している。

先日、午後の気だるさを紛らわそうと部屋の窓を開けた時、不意に秋の匂いがした。
匂いというのはいつも記憶と共にあるもので、
その時は小学校の遠足で食べたお弁当の味や山の景色を思い出した。

私はこれこそが"秋"だったことに気付く。
子供の折に心をときめかせ、五感に焼きついた
はずの秋は、大人になるにつれただの気候になっていた。

いつか本当に秋と呼べる気候が日本から失くなってしまっても、私たちはきっと目で、心で、
記憶の中で秋を感じている。


2020.9.10

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