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「レビー小体型認知症かもしれない私」の備忘録 ①睡眠障害/幻聴/入眠時幻覚

2022年3月「レビー小体型認知症の初期」と診断されるが、その後別の病院で診断が覆される。一年後さらにまた別の病院で「レビーの可能性はある」とされるも典型的な症状に欠けるため、未だ診断には至っていない。

次々と自分の身体に起こる不思議に惑わされながら、私はもう何年も薄暗く心もとない日々を送っている。

今までのことを、そして現在の自分の状況についてのアレコレを、記録しておきたいと思っている。思ってはいるのだが、最近の自分はどうにも集中力が続かない。書きかけては止め、また書きかけては削除し、結局諦めてPCを閉じる、この繰り返しだ。

時系列に沿ってまとめようなどと思うといつまで経っても書けないので、とりあえず今、私の身体や脳内に起こっていることを、思いついたままに少しずつ記録しておこうと思う。これは「レビー小体型認知症かもしれない私」の備忘録だ。


睡眠障害

通常量の睡眠導入剤を飲んでも、2時間以上眠れないことは珍しくない。最初にやってくる「眠れそう…」という波に乗り損ねると、脳はおかしな冴え方をし始める。

眠れない、頭は考えごとをしている、脳は起きている。そう感じている一方で、脳内スクリーンには見たこともないような風景、人物が動き出している。

これはどこだろう、何の光景だろう、私は夢を見ているんだろうか。そう考える。何となく楽しくもあるので、そのまま味わっておく。

眠りに入りそうな少し前の時間に、以前はよく一瞬の短い画像が見えた。私の頭の中のスクリーンの奥のほうに突如、例えば知らない男の顔が浮かび、次の瞬間男が私に微笑みかけてきたりする。

ピクミンのような形をした緑色の妖精たちが、数人手をつないで見えたこともある。緑の妖精はつり上がった怖い目をしていた。異国の町の市場の店先に色とりどりの商品が並んでいた時には少しワクワクしたものだ。

そういったものは脳内に蓄積された、かつてテレビや映画などで見た映像や画像の膨大な記憶の断片に過ぎないのだと、以前脳神経内科の教授に言われた。なるほどそういうものなのかと納得したので、特に不思議に思うこともなかった。

この一年くらいだろうか、脳内スクリーンの位置が、私の頭の中で微妙に前方に移動したように感じる。以前は頭の中の後ろ寄りにあったスクリーンに平面的な画像として見えた人物が、最近はグッと私に近づいて立体感を増している。

先日は娘の上半身が目の前に見えた。彼女は身振りをまじえて必死に何かを熱弁していた。こんな声だったかな? と一瞬思うが、間違いない娘の声だと思って眺めていた。

やがて娘は何かを言いながら、私に右手を差し伸べた。彼女の腕はスクリーンの端から飛び出して立体的だった。それに対して自分が口角を上げて微笑んだことまでは憶えている。

息子が出てきたこともある。息子は私の脳内スクリーンの前方、左寄りに立って、何かを喋っていた。普通に息子の声だった。

次に息子とその横に並んで歩く自分の背中が見えた。息子の語りかけに、私も一所懸命何かを話し続けていた。その瞬間、自分がずっと声を出していることに気づいた。夢のなかで私は、ずっと話していたらしかった。それは明確な寝言ではない。ただの発声だ。

この半年くらいの間、睡眠アプリを使って自分の寝言や鼾を録音してきたが、私の声は常に声であって言葉にはなっていない。鼾の声ヴァージョンのようでもあるが、時にその発声は1時間近く続く。声には強弱があり、たまに可笑しな旋律を伴っていたりもする。


幻聴

寝つけない時、あるいは目覚めかけている途中に、度々幻聴がある。そこにないはずの音声、を初めて耳にしたのは2006年だ。母が私の名を呼ぶ声だった。

その後、救急車のサイレン、インターフォンの音、メールの着信音などが頻発した。息子の歌声やギターの音だったこともある。

DLBの母、統合失調症の姉、ASD(自閉スペクトラム症)の息子、その他諸々の対応に追われ、ストレスまみれの生活を長年続けてきた中での幻聴だった。

当時はだからストレス性の幻聴だろうと理解をしていた。そしてそれ以降も断続的に、一瞬の音や声は聞こえている。

幻聴もその時々によって聞こえ方が異なる。耳のすぐ横で聞こえるように感じる時もあれば、明らかに頭のすぐ上のほうから聞こえる時もある。くぐもった音の場合も、やたらに鮮明で澄みきった音の場合もある。

最近、聞き覚えのある声を度々聞く。大きな溜息だったり一瞬の発声だったりする、それは紛れもなく自分の声だということに気づいた。現実の私はもちろん口をつぐんでいる。

先日寝返りをうって右耳を下にしたら、急に耳鳴りがした。日常的によくあるキーーンという音ではなく、クァーンクァーンといった、金属パイプがぶつかる工事現場のような音。今までにも何度か聞いたことがあり、それは一定のリズムでしばらく続く。

左耳を下にしても聞こえるのかなと、寝返りをうってみたら鳴り止んだ。そして仰向けに寝がえりをうち直したら今度は頭の上で、ザザザザァッと勢いよく流れる水音が聞こえた。一瞬だが、飛沫が眼に浮かぶほどの鮮やかな音色だった。


入眠時幻覚

まだ寝ついていないという自覚がありながら、次々と色々な物や人が見え始め、音が聞こえ、背後に強い人の気配を感じる、という経験をした。

ベッドで仰向けになっている私は、大人と子供が数人混じって罵り合うような大声に耐えていた。実体的意識性と呼ばれるものだろうか。自分の頭の後ろに間違いなく複数人が存在していると感じること、その妙な生々しさが、怖くてたまらなかった。

彼等の罵声は騒々しく不愉快で、こんなんじゃ眠れない、何とかしなくちゃ、文句を言ってやろうと決意した私は、勇気を振りしぼって大声を上げた。「うるさいっ!」。実際には思ったよりもずっと小さな声しか出なかったが、幻覚はそこでおさまった。

また違う日には、やはりベッドに寝たままの私に色々な光景が見え始め(おそらく目は閉じている)、知らない男に襲われそうになった。突如左手側から男が一人飛び出しきて、私のすぐ脇に来た。「殺してやる!」とか、確かそんなようなことを男は言い、私は必死にもがいた記憶がある。朝起きたらシーツがしわくちゃになっていた。実際にもがいていたのかもしれない。

夢か現かという感覚の時に人から何かを問われ、答えたことが何度かある。
「はい」とか「いいえ」とか、そういった短い返答だった。私の足元に聳え立つ大きな神様のような存在を見上げながら「はい」と恭しく答えた時には、「これはまるで『金の斧銀の斧』じゃないか」と自分を滑稽に感じたものだった。

引っ越して間もない頃、夢の中でどこかの回廊を彷徨っていたら、実際に部屋の中を歩いているらしいと気づいたことがある。真っ暗闇の中手探りで、ベッドの手前の家具の位置を確かめた。木製チェストの角の少しざらついた手触りを憶えている。

気づいたらバルコニーの手前に佇んでいたこともあった。何でこんなところにいるんだろうと思い、すごすごとベッドに戻った。どちらもおそらくは環境の変化による一時的なもので、それ以降夢遊病めいた行動はない。


どうにも睡眠に何かしらの異常があると思えたので、医師の勧めもあって昨年末、終夜睡眠ポリグラフ検査を受けることになった。

当日は病室の暖房が何故かほとんど効かなくて、おまけに布団が夏掛けだったため身体が一向に温まらず、よけいに寝つけなかった。睡眠導入剤は案の定効かず、その後抗不安薬を追加。看護師さんが冬用布団を見つけてきてくれて、それからストンと眠りに落ちた。いつもとは違う眠りのような気がした。

年明け、睡眠に異常はないという検査結果が出た。この検査で異常が見られたら、今度こそレビーの診断が下るかなと考えていたので残念だった。あんなに厄介な検査をして、それでシロだったんだから、まあとりあえずそれはそれとして受け止めるしかない。

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