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失敗を認めたくないから、人は悪魔になる――『失敗の科学』が怖いくらい面白かった

「失敗」

 こんなに胸のときめかない言葉もなかなかないでしょう。
 おそらく、地球上の全ての人間が共感できる「嫌な言葉」です。

 かくいう私も失敗は大嫌い。
 運のいいことに本番に強いタイプだったので、これまでの人生で大失敗をやらかした経験はほとんどないのですが、大学受験で一回やらかしたのは忘れられません。もう一年遊べるドン! がっはっは、笑えねえ!
 いやほんと、この先どんな辛いことがあっても、受験勉強の辛さに比べたら耐えられそうな気がしています。

 さて、喉元過ぎればなんとやらと言いますが、なんだかんだで大学を楽しみ、勉強も面白いと感じるようになった今日この頃、この本に出会いました。

 普段はあまりこの手の本を読まないのですが、「Kindle Unlimitedだし読んでみるか~」と気楽に手を出しました。ビジネス本なのでそんなサクサク読めないだろうなと思っていたんですけど、あまりにも面白くて一気に読んじゃいました。この本、実際にあったエピソードをもとに解説するスタイルなので、小説を読む感覚で楽しめるんですよ。それがすごく良かったです。

 今作は本当に面白いのですが、それと同時にすごく怖いというか、読んでいて悪寒が走りました。人間が失敗を前に取る行動が、あまりにも身に覚えがありすぎて。なんというか、めちゃくちゃ刺されました。多分読んだ人のほとんどが「うっ」となる箇所があると思います。気を抜いて読むとグサッとやられますよ!

 さて、今作の内容を端的に言えば、人は自分の失敗を認めるとこれ以上ないほど屈辱を感じるので、どんな手を使ってでも認めようとしないことを実例や研究を用いて明らかにしています。

自分を騙す

 「失敗を認めない」と聞くと、「こら、◯◯くんに謝りなさい!」「やなこった!」みたいに悪意のあるパターンを想像すると思います。でも、ほとんどの人は悪気があって認めないわけではないのです。だからこそ厄介。

 人は自分を騙すことができます。よく、「自分にはウソをつけない」なんて言いますが、実はそうとも限らないのです。実際にはウソをつくのではなく、消します。失敗をなかったことにするのです。自分を守るために、記憶をいじくることで自分自身を騙すわけですね。

 私はあまり失敗を引きずらないタイプです。それ自体は自分の良いところだと思っています。ただ、昔から同じミスを何度もしてしまうことがありました。この本をあてはめて考えると、失敗する度に記憶を消し、何も学んでいなかったのです。読んでいて「そういうことだったのか」と腑に落ちました。

認知的不協和

 この本で一番怖かったのはこの概念かもしれません。なんてったって、最近話題になりやすい陰謀論者やカルト宗教の常套手段だからです。
 先にも言った通り、人にとって失敗を認めるのはこれ以上ないほど屈辱的なことです。なので基本的に認めない。でもどうしたって認めなきゃ乗り越えられないような場面だってあるはずです。そういう時、人はどうするのか?
 ここで「認知的不協和」の登場です。人は失敗を認めるくらいなら、事実の認識を変えてしまいます
 過激な陰謀論やカルト宗教が分かりやすい例ですね。彼らが言っていることは基本的に当たりません。明日地球が滅ぶと言ったって滅ばないのです。じゃあそれで失敗を認めるのかというとそうでもない。彼らは「私の信じていた宗教が間違っていた」とは考えず、「神様が我らを救ってくださった」と解釈するのです。事実の解釈の捻じ曲げ、これこそが認知的不協和です。
 結局、どうなったところで彼らは失敗を認めません。だからこそ厄介極まりない。研究によると、予言が外れると信者はより一層カルト宗教にのめり込んだそうです。

 この後の項目では、「分かっているつもり」と「本当に分かっていること」には大きな違いがあると説明されているのですが、読んでいて思い出したのが、ドラゴン桜2の主人公の台詞。

ボクはバカなんだ
バカに気づいていない本当のバカなんだ

ドラゴン桜2

 私も自分がバカだったと素直に認められるくらい、謙虚に生きたいものです。

非難と犯人探し

 ここも読んでいてすごく寒気がした項目。
 どちらもインターネットで毎日のように見かけますよね。

 世界は複雑です。絶対に正しいことなんてありません。
 ……これ、言われたら誰だって当たり前だと思いますよね。あたりまえ体操

 それに対して、非難は真逆の効果をもたらします。複雑な事象を単純化してしまい、失敗の中に潜む本質的なシステムの欠陥を隠してしまうのです。
 テレビのコメンテーターって、なんかやたらと嫌われるじゃないですか。あれなんでだろうなあと考えていたのですが、「世の中を単純化しすぎている(ざっくばらんに非難している)」ことが要因の一つとしてあるんじゃないかと思います。

 また、直すべきシステムの欠陥を隠す点に関しては、犯人探し(魔女狩り)も同じです。ネットの海では顕著ですが、犯人を見つけてボコボコにして終わり、なんて事象はよくありますよね。

失敗との向き合い方

 この本では失敗との向き合い方についても解説されています。詳しくは実際に読んでほしいのですが、簡単に書き留めるとこんな感じですね。

  • 失敗は欠かせないものであると認識する

  • ランダム化比較試験(RCT)で主観を取り除く

  • マージナル・ゲイン(細かな改善の積み重ね)を行う

  • 事前検死(プロジェクト開始前に失敗した場合の原因を考える)を行う

  • コストを抑えて、失敗しやすくする。

 というわけで、この本にはいつの時代にも共通する失敗の本質的な情報が記載されています。読んでいると見に覚えのある要素がいくつも出てくるので、なかなかゾクゾクさせられて楽しいです。ぜひ読んでみてください。

 最後におまけ。実は、今あなたが読んでくださったこの文章も、失敗を意識した書き方を取り入れています。

 私の文章を書く流れを簡単に説明すると、まず大まかなプロットを先に決定します。この時点で、全体の流れに不備があったら軽く修正しておきますが、詳細まで完璧にしようとはしません。ただ、これをやっておくことで、書き始めてから大失敗&ボツになる可能性がぐっと減ります。
 加えて重要なのが、書いている間は基本的に読み直しをしません。どんどん書き進めます。当然、書き終わった直後は不備だらけなのですが、一旦就寝して、次の日に修正します。
 実は文章も、最初から完璧を目指すより、まずは不備(言うなれば失敗)を含んでもいいから終わらせて、後から修正したほうが格段に早いです。実際、この書き方になってからかなり書くスピードが変わりました。
 マーク・ザッカーバーグの「Done is better than perfect(完璧を目指すよりまず終わらせろ)」は本当に正しかったんだなあと、しみじみ感じています。


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