見出し画像

そう、これはテセウスの船『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』

『ラブライブ!』というコンテンツに対して、言いたいことは山ほどあるんですよ。

私はライブもソシャゲも追っかける熱心なファンではないものの、リアタイで見たサンシャインやスーパースターを含めて、アニメと一緒に育ってきた感覚が残っています。

そして、ラブライブの歴史をある程度知っている方ならご理解いただけると思いますが、長く触れれば触れるほど、酸いも甘いも噛み分けたはずです。

社会現象になった初代『ラブライブ!』のμ'sと青春を過ごした人。

ソシャゲとして大成功を収めたのち、ストーリーの炎上を発端に爆発四散した『スクールアイドルフェスティバル』に課金していた人。

そんなスクフェスのアニメ化で「アニメが正史」とまで言われるほど大絶賛を受けた「アニガサキ」こと『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』に救われた人。

『ラブライブ!』『ラブライブ!サンシャイン!!』『虹ヶ咲』に次ぐオールメディアプロジェクトで、NHKをも巻き込んだ『ラブライブ! スーパースター!!』の出来の悪さに絶望した人。

「ジェットコースターか何かなの?」と言いたくなるくらい、クオリティーの乱高下が激しいコンテンツです。

私の推し

そんな私も、このコンテンツに癒やされたりぶん殴られたりしてきた身。
もういい加減、足を洗うべきなのかもしれない。そう思いつつ、なんだかんだでずっと注目している自分がいます。これがDV彼氏を持つ彼女の気持ちか……

ただ一つだけ、最近まで全然注目していなかったコンテンツがありました。それが「蓮ノ空」こと『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』。主にYouTubeと専用のスマートフォンアプリを中心に展開しているコンテンツです。

同時進行の『スーパースター!!』や『虹ヶ咲』がアニメを展開しているのもあり、私は正直地味な印象を持っていました。

ビジュアルもあまり派手な感じではないですよね

ところが、私が今『ラブライブ!』のコンテンツで一番ハマっているのは蓮ノ空なんですよ。なぜなのか考えてみると、これは非常によく計算されているコンテンツだぞ……と思ったので、このnoteで紹介しようかなと。

ただ、作品そのものは悪くないんですが、今作を追いかける場合、どうしても覚悟しなければならない側面があります。なので注意喚起も含めてです。

結論から言うと、蓮ノ空の魅力を表すキーワードは「バーチャルYouTuber」と「テセウスの船」となります

蓮ノ空=バーチャルYouTuber

『ラブライブ!』シリーズは、雑誌にライブにアニメと横展開しまくってユーザーを囲い込むのが基本です。ただ乱立させるだけではなく、各プロジェクトには中心となるコンテンツが存在します。μ'sはアニメで爆発しましたし、虹ヶ咲はゲームが中心となって展開されました。

では、蓮ノ空は何が中心なのか?
一見すると、専用のスマートフォンアプリ『Link!Like!ラブライブ!(リンクラ)』に見えますが、それは半分間違い。正確には「動画配信」が中心です。これが今までのシリーズとの最大の違いと言えます。

リンクラはゲームの体裁をとっていますが、その実は動画配信アプリ。「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」に所属するスクールアイドルの配信『With×MEETS』を視聴できます。

一応、「ガチャのために入れたのか?」と言いたくなるゲーム要素もあるにはあるのですが、私は手を付けてないです。ぶっちゃけやる必要も全然ない。

ちなみにストーリーもある。これが結構面白いのもハマった要因の一つ。

「動画配信」と聞いて、察しのいい方は気づいたかもしれません。このプロジェクトが参考にしているのは、今をときめくバーチャルYouTuber。つまり今作は「バーチャルYouTuberをラブライブでやってみた」なのです。実際、当初は「バーチャルスクールアイドル」という仮名で発表されています。

なので、「蓮ノ空の魅力って何?」と聞かれた時、その人がバーチャルYouTuber好きだと説明がものすごく楽なんですよ。魅力がだいたい同じなので。

例えば、蓮ノ空の魅力の一つが、公式からの供給の多さ。
先述したスクールアイドルの配信『With×MEETS』は、週に3回ほど行われています。今までのラブライブのコンテンツと比較しても、これは非常に供給スピードが速い。しかも、配信は3Dモデルによって行われ、ちゃんとキャストがモーションキャプチャーを担当するなど、かなりの力の入れようです。

ご存知の通り、バーチャルYouTuberをはじめとする配信者は、ほぼ毎日のように配信します。ファンはその供給の多さが嬉しくも大変なわけですが、この良さを蓮ノ空も踏襲しているわけです。

アプリ内の配信では、コメントやギフトを送れます。どこかで見たことがある光景。

また、今作は「ライブ感」を大事にしていることがインタビューでも言及されており、配信はリアルタイムで行われています。

サブスクとかでいつでも気軽に過去の名作に触れることができるからこそ、「今」を追いかけて熱を感じ、歴史が刻まれる瞬間に立ち会う意義がより重要視されている。だからこそ今、ライブ感を最大化するためにキャストさんがモーションキャプチャーを担当することと、リアルタイムで配信すること、この2つは外せないなと思ってました。

【12月27日発売「Link!Like!ラブライブ!FIRST FAN BOOK」より】「蓮ノ空」ファン必見! スペシャルスタッフインタビューを全文掲載!

視聴者のコメントと一緒に作り上げていく雰囲気や、ライブならではの特別感は、これまたバーチャルYouTuberと共通していると言えるでしょう。

蓮ノ空=スクールアイドルの再構築

蓮ノ空のもう一つの特徴。それは、「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」という舞台はそのままに、そこに所属するスクールアイドルが入部・卒業する点にあります

そもそも、スクールアイドルの特異性とはなんでしょうか?

リンクラのストーリー内でも言及されていますが、スクールアイドルの魅力は「不完全だからこその輝き」です。学生という限られた時間の中で精一杯活動し、競い合い、自分を表現する。だからこそ、観ている人も心を動かされるわけです。

シリーズを見る度に感心させられますが、「スクールアイドル」という発想は本当にエポックメイキングですよね

では、今までの『ラブライブ!』シリーズで、スクールアイドルの特異性を存分に発揮できていたかというと、これが微妙なところでして。

例えばμ'sの場合、「3年が卒業する時点で終わりにする」と作中で明言し、実際に人気絶頂で解散したことが有名です。だからこそ、今でも伝説のスクールアイドルなわけですが、その一方でメンバーが変わってもクラブが続いていく描写はあまりありませんでした。この点に関しては、Aqours以降や虹ヶ咲でも同じです。

その点、蓮ノ空は「3年生が卒業した後もスクールアイドルクラブは続く」という側面を、今までで最もはっきり描写しています。実際、101期生で生徒会長を務めていた大賀美沙知は、今年の3月に蓮ノ空を卒業しました。その代わり、4月には新たに104期生の3人が加入しました。

2024年5月現在の蓮ノ空は、3年生3人、2年生3人、1年生3人の9人体制。当然ながら、来年の3月には、先輩3人が卒業します。

……え?

蓮ノ空=テセウスの船

そう、蓮ノ空に所属した時点で、実質的に3年間のタイムリミットがスタートしています。我々は、いつか彼女たちが卒業することを受け入れて応援しなければならないのです。

例えるなら、余命3年と言われて生きているような気持ちでしょうか。
人間って、自分があと何年生きられるかを正確に把握してしまうと、知らなかった場合と比べて生きる心地が全然変わってくると思うんですよ。たとえ20年先とかでも。
その感覚に近いと思っています。

いつかいなくなる存在だからこそ、彼女たちがスクールアイドルとして輝く一瞬には、どこか刹那的な美しさがあるんですよね。

このあたりもバーチャルYouTuberに近いと思います。彼ら・彼女らも、卒業や引退をすると配信アーカイブは消えてしまいますから。ただし、蓮ノ空はもっと明確に期限が設定されています。

要するに、蓮ノ空はテセウスの船なんですよ。

いま活躍している子たちも、3年後には全員いなくなっていて、全く知らないメンバーで構成されている。ちょっと想像しづらいですよね。でも、このまま行くとそうなるわけです。留年でもしない限り。

同じ「蓮ノ空」だけど、その中身は全く異なる。見た目は同じでもパーツは異なるテセウスの船に、どこか通じる部分があると思いませんか。

3年生の卒業までまだ時間はありますが、悩ましい問題です。
1年後や2年後も、私は蓮ノ空が好きなままでいられるのか? それともショックを受けて、気持ちが離れていってしまうのか?今後のことは全く分かりません。

だからこそ、私はこのコンテンツを気安く勧める気はありません。彼女たちを応援するには、ある程度の「覚悟」が必要です。

ただ、間違いなく言えるのは、彼女たちがスクールアイドルとして活動する「今この瞬間」から目が離せないことです。リアルタイムで追うからこその感動は、今までの『ラブライブ!』シリーズの中でも随一だと思っています。

すなわち人生とは、連続する刹那なのです。

岸見 一郎 & 古賀 史健『嫌われる勇気』

私からすれば、もはや乗りかかった船。
私は彼女たちが描く「刹那」を、最後まで見届けようと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?