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台本『夕立フラッシュバック』

『夕立フラッシュバック』  栗栖

登場人物

・リナ(女)
・コウタ(男)
・ナレーター①②(性別問わず)
・友達①〜④(①②は女、③④は男)
・イイジマ(男)
・先生(性別問わず)
・女の子(女)
・通行人①〜④(性別問わず)

※ナレーターは一人でも可。
※友達や通行人などは、他の役との兼ね役も可。




ナレ①「最近、雨が続いています。降っては止み、また降っては止みを繰り返して…外に出るのが億劫になる程に」
ナレ②「こんな天気が続くと、リナは決まって思い出してしまうのです。あれは高校二年生の時。夏休み前の、みんなが浮き足だっていたあの日」
ナレ①「あの日もひどい夕立でした…」

友達①「ねぇねぇ、リナとコウタ君って付き合ってないの〜?」
リナ「(吹き出す)何よいきなり」
友達②「だって、二人って小学校から一緒なんでしょ〜?幼馴染じゃ〜ん」
リナ「家が近所だったってだけだよ」
友達②「またまた〜!毎日二人で登下校してるんでしょ!」
リナ「毎日じゃないし…まぁ、週四…五くらい?」
友達①「それほとんど一緒じゃん!良いなぁ〜コウタ君ってスポーツマンじゃん?私にもあんな彼氏いたらな〜」
リナ「だから彼氏じゃないって!」
友達②「え〜ホントに〜?リナ、コウタ君の事好きなんじゃないの〜?」
友達①「そうだそうだー!本当はどう思ってんの!」
リナ「えっ、いや、どうってそりゃ…」

コウタ「ただのご近所さんだよ」
友達③「ただのって…そりゃ無いだろ。毎日一緒にいるのに?」
コウタ「毎日じゃないし、良く言っても幼馴染ぐらいだろ」
友達④「えぇ〜あの距離感で付き合ってないのがありえんワ〜」
友達③「トーヘンボクなお前には勿体無いくらいの良い子じゃん」
コウタ「トーヘンボクって…そうは言っても、リナはただの友達だよ。それにアイツ…」
先生「コウタ!体育倉庫の鍵、今日はお前の当番だろ!」
コウタ「あ、はい!今行きます!」
友達③「はぁ〜コウタの奴、まじで部活一筋だよなぁ…」
友達④「リナちゃん、絶対コウタの事好きなのにな…」
友達③「やっぱそうだよな?」
友達④「おう、どう見てもそうだと思う。悔しいが」
友達③「あーあ!なんで気付かねーのかなぁ!コウタのウスノロバカ野郎〜」

(放課後、昇降口の近くにて)

リナ「…って事があってさ〜!」
コウタ「へー」
リナ「みんな、私とあんたが付き合ってないの変だ!って言うんだよ?そんなに変かな〜」
コウタ「…さぁ」
リナ「まぁ…私は別に、良いけどね?あんたと…そーゆー仲だって思われてもさ?」
コウタ「…」
リナ「ねぇ、あんたはどうなの?私の事、どう思ってるの?」
コウタ「やめろよ!」
リナ「な、何怒ってんの?」
コウタ「周りの奴がどうだとか、そんなの関係ないだろ…勝手に言わせとけばいいじゃんか」
リナ「何それ、コウタなんか変だよ?」
コウタ「別に…それにお前…」
リナ「何よ」
コウタ「三年のイイジマ先輩と付き合ってるんだろ?」
リナ「!」
コウタ「それで、俺が何だよ。周りの噂に流されてお前と付き合うのかって?舐めんなよ」
リナ「あ、あれ見てたの?違うの、あれは」
コウタ「もう良いって。お前と俺はただの幼馴染なんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
リナ「な、なんでそんな事言うの⁉︎」
コウタ「俺は…!」
リナ「何よ!」
コウタ「あーもう…俺、部活あるから」
リナ「ちょ、待ってよ!コウタ!私っ、」
コウタ「リナ」
リナ「…?」
コウタ「…悪ぃ、少し頭冷やす。じゃーな」
リナ「…コウタ…」

ナレ①「コウタは勘違いをしていました。三日前に、リナはイイジマ先輩に告白され…イイジマ先輩というのは、コウタと同じく陸上部の人でリナも面識はありました。だけどまさか告白されるとは思わなかったし、コウタに見られるとも思わなかったのです。リナはイイジマ先輩には悪いと思いつつ告白を断りました。顔見知りとは言えあんまり知らない先輩でしたし」

リナ(M)「まぁ顔は、悪くないかな…」

ナレ②「とは思いつつ、それでも付き合いたいとまでは思い至りませんでした。とにかく、その事をコウタにきちんと伝える事ができませんでした。その時のリナは知らなかったのです。それを最後にコウタとはもう二度と会えなくなるという事に」

コウタ「…はぁ…」
イイジマ「コウタ!お疲れ!」
コウタ「イイジマ先輩、お疲れ様です!」
イイジマ「おう。いや〜今日もマジで疲れたなぁ」
コウタ「っすね…イイジマ先輩」
イイジマ「ん?どした?」
コウタ「いや…その、リナの事、なんすけど…」
イイジマ「リナ?あぁ!リナちゃんか!どしたん」
コウタ「あの、お二人って付き合ってるんすよね?自分この前、二人が校舎裏にいるの見かけて…それで」
イイジマ「待って待って!俺と、リナちゃんが…?いや、付き合ってないよ?」
コウタ「えっ?」
イイジマ「あ、いや確かにその時校舎裏にリナちゃん呼び出して告白したのは俺だけど…や〜すっぱり断られちゃってさ〜まぁなんか、他に好きな人が居そうな感じだったしなぁ。はぁ…てかコウタ見てたのかよ!うわ気まず〜」
コウタ「あ、いえそんな…そうか、そうだったんだ…」
イイジマ「どした?大丈夫か?」
コウタ「あっ大丈夫です!すいません、イイジマ先輩。今日は先帰ります!」(駆け出すコウタ)
イイジマ「お、おう!雨降るっぽいし気ィつけてなぁ!…はーあ、青春かよ」

ナレ①「コウタが学校から飛び出したのと同じ頃、ちょうど雨が降ってきました。それまでとは打って変わってバケツをひっくり返した様な夕立でした」
ナレ②「信号に差し掛かったところで、前に幼稚園児くらいの女の子が、反対側にいるお母さんに向かって歩き出そうとしているのが見えました」
ナレ①「その女の子は赤信号に変わった事に気付かず道路に飛び出しました。横からは車が迫ってきています」

コウタ「危ない!」

ナレ②「ドン‼︎と鈍い衝突音が辺りに響き…間一髪、女の子はコウタに押し出され無事でしたが…コウタは車に撥ねられ、道路の上に投げ出されました」

通行人①「きゃぁぁぁぁ‼︎」
通行人②「大丈夫か!」
通行人③「誰か轢かれたぞ!」
通行人④「救急車!救急車を呼べ!」
コウタ「っ…リ、ナ…ご……め………」
通行人②「おい!君!大丈夫か!聞こえるか‼︎」
通行人③「早く!救急車を‼︎」

ナレ②「運転手曰く、雨のせいで女の子の姿もコウタの姿も見えなかったそうです」

(友達から電話がかかってきたリナ)

リナ「え?嘘、嘘嘘うそうそ………コウタが?」
友達②「さっき救急車に運ばれてったって!リナも病院行こ!」
リナ「うそ……」

ナレ①「リナが病院に着いた頃には、すでに手遅れでした。ベッドの上で目を閉じ、人形のようにぴくりとも動きません。リナは周りに人がいる事も忘れて赤ん坊の様に泣き叫びました。泣くことしかできなかったのです。もうコウタは居ない。どうやっても会えない。二度と想いを伝える事もできない…そんな現実を拒むように、リナは泣き続けました」
ナレ②「しばらくして、お葬式があり、大勢のクラスメイトや家族に見守られながら、コウタは送り出されました。そしてまた日が経ち、気持ちの整理がつかぬまま日常だけが元通りに始まろうとしていました」

(クラスメートとの帰り道)

友達①「リナ…大丈夫?」
リナ「…ん…」
友達①「コウタ君、飛び出した女の子を助けたんだってね…すごいよね」
リナ「…」
友達①「リナ…」
リナ「私…コウタに言えなかった」
友達①「え?」
リナ「コウタに…言えなかった…」
友達①「…うん」
リナ「私…コウタのこと、好きだったんだよ…気づいてなかったのはコウタだけ、周りはみんな知ってた…なのにさ…ほんと昔から鈍感でさ…そういうとこも、好きだったんだけどさ……」
友達①「うん。うん…」
リナ「言えなかった…!コウタ……ごめん…!」
友達①「リナ、大丈夫だよ。きっとコウタ君にも…気持ちは伝わってるよ…」
リナ「ううぅ、うぁぁぁ…!」

ナレ②「それから、十年が経ちました。リナはその後しばらくは引きずっていましたが、悲しみや思い出も、少しずつ時間が削り取って、少しずつ元の暮らしに戻っていき、いつのまにか普通に笑えるようになっていました。楽しい事もありましたし、嬉しい事もありました」
ナレ①「それでも…雨の日になると思い出してしまうのです。伝えられなかった想いやコウタの後ろ姿。その時の後悔だけがずっと拭えずにいたのです」

リナ「はぁ…早く帰ろう。なんか雷鳴ってるし…」

ナレ②「仕事から帰るタイミングで、雨が強くなってきました。それまで以上に強く、バケツをひっくり返した様な夕立でした」
ナレ①「雷がゴロゴロと鳴り、頻繁に空が光っています。沈む気持ちを振り払おうとリナの歩調は早くなっていきました。それに同調する様に雨も雷も激しくなります」

リナ(M)「もう…こんな天気嫌。コウタの事を思い出すのも嫌。こんなに辛くなるくらいなら…あの時、無理にでも全部伝えられれば良かったのに‼︎」

ナレ①「その時でした。一つの雷がリナの目の前に落ちました」

リナ「きゃ‼︎」

ナレ①「一際大きく、そして、赤い雷が、リナの視界を照らしたのです。そのあまりの閃光と轟音に、リナはたまらず目を閉じ、その場にしゃがみ込んでしまいました」
ナレ②「何秒か、何分か。どれくらいそうしていたかはわかりませんが、リナがおそるおそる目を開けた時には雷は遠のいており、雨足も弱まっていました。さっきの雷は何だったのか、リナは頭を働かせようとしましたが驚いた拍子なのか、ぼーっとしていてはっきりとしません。どうやら身体は無事なようです。しばらく考えこんでいると」

コウタ「リナ?」
リナ「…へぁっ⁉︎」
コウタ「何だよ、先帰ったんじゃ無いのかよ」
リナ「コウ、タ…?えっ?うそ…?ほんとに?え…?」
コウタ「どうしたんだよ。てか、お前びしょ濡れじゃんか。ちゃんと傘させよ」
リナ「えっ、あ!ごめん…」

ナレ②「リナはそこではじめて自分が制服姿だということに気が付きました。そして目の前には紛れもなく、あの日のコウタの姿が」

リナ(M)「何が、起きているの…?」
コウタ「どうした?ぼーっとして」
リナ「いや、あの、コウタ…生きてる、の?」
コウタ「はぁ?何言ってんの?」

ナレ①「戸惑うリナをコウタが自分の傘に入れます」

コウタ「ほら、風邪引くぞ」
リナ「あ、ありがとう…」
コウタ「帰ろうぜ」
リナ「うん…」

ナレ①「コウタとの帰り道。幼馴染との十年ぶりの再会で、リナの頭にはあの頃の記憶が鮮明に蘇っていました。一緒に歩く通学路。こんなどこにでもありふれた光景を、リナはどれほど望んだ事でしょう」

リナ「…」
コウタ「…」
リナ「あの、」
コウタ「なぁ、」(二人同時に)
リナ「あ、ごめん」
コウタ「いや、こっちこそ。何?」
リナ「ううん。大した事ないから…あんたからいいよ」
コウタ「そっか…リナ、イイジマ先輩と付き合ってないんだってな。さっき、本人から聞いた」
リナ「え!あっ…うん」
コウタ「俺、勘違いしてて…さっきのこと、言いすぎた。ごめん」
リナ「ううん!こっちこそ、勘違いさせるようなこと言ったし…お互い様。私こそごめんなさい」
コウタ「ん…俺さ、考えたんだ。俺…リナとイイジマ先輩が付き合う事に対して腹を立てたんじゃない。二人が付き合うことでリナが無理してるんじゃないかって、リナが俺との関係を無理して続けようとしてるんじゃないかって…そう、思って…嫌だったんだ」
リナ「うん…」
コウタ「俺…多分怖かったんだ。リナとの距離感ができる事にさ」
リナ「…でも、それも勘違いだった…?」
コウタ「…ん。それでさっきイイジマ先輩に話聞いた時、『あぁ、良かった』って思ったんだ。それでやっと分かったんだ…俺、リナのこと」
リナ「待って!」
コウタ「…?」
リナ「ごめん…その先を聞く前に…私からも、いい?」
コウタ「…おう」
リナ「ありがと…私ね、すっっっごく良いことがあったんだ」
コウタ「…良いこと?」
リナ「そ!それはもう、十年ぶりにこんな気持ちになったって感じ!」
コウタ「それは、大袈裟だな…」
リナ「へへへ…でも本当だよ。ずっと知りたかった事がやっと分かったんだ。それに、ずっと言えなかった事も…今ならちゃんと言えそうだなって」
コウタ「…そっか」
リナ「コウタのおかげだよ。私、あんたとこうやって一緒に帰れるの、凄く嬉しいんだ…ほんとに…嬉しいんだ…」
コウタ「リナ…?」
リナ「なんてね!ねぇコウタ、デートしようよ!」
コウタ「はぁ⁉︎…突然だな」
リナ「いいじゃん!私行きたいとこあんの。あータピオカ飲みたくなってきた〜!」
コウタ「この雨ん中タピオカかよ!」

ナレ②「楽しげに話す二人をよそに、雨はだんだん強くなってきました。遠くから雷がゴロゴロと鳴り、頻繁に空が光っています。それを見てリナは気付いたのです」

リナ「あ〜…やっぱ今日はなしで。雨強くなってきたしさ」
コウタ「何だよそれ。お前、自分が行きたいって言いだしたくせに」
リナ「ごめんごめん!…ね、コウタ?」
コウタ「ん?」
リナ「またさ…こうやって一緒に帰ってくれる?」
コウタ「そりゃ、帰る方向同じなんだから…一緒になるんじゃねーの?」
リナ「そりゃそっか!えへへ…」
コウタ「…リナ」
リナ「ん?」
コウタ「その…俺とデートしよう」
リナ「…えぇっ!」
コウタ「そんな驚くなよ…リナが何を考えてるのかわからないけど…俺はちゃんと知りたいんだ。俺がどうにか出来るのかとか、助けになれるかとか、それもわかんない。けど、俺が最初に気付きたいんだ。だからさ」
リナ「わかった、わかった。あんまり言われると恥ずいからさ…もうその辺で…」
コウタ「お、おう…そっか…」
リナ「…ふっ、あんたがそんなマジメな事言うとは思わなかったナ」
コウタ「何だよ、そんなに変かよ」
リナ「ううん、なんかコウタらしく無いなーって思っただけ!いつの間にそんなに大人になっちゃったの〜?」
コウタ「うるせ!人が心配してるのに茶化しやがって…」
リナ「あはは、ごめんごめん!」

ナレ②「二人のすぐそばまで、雷は近づいていました。あの、一際大きく赤い雷です」

リナ「あ、そろそろ…ごめん、コウタ!」
コウタ「どした?」
リナ「学校に忘れ物しちゃった、私取りに戻るから先に帰って!」
コウタ「え、じゃあ一緒に…」
リナ「ううん!大丈夫!雨強いし、雷もすごいしさ…コウタ」
コウタ「…?」
リナ「ありがとね。私、あんたに謝れなかったからさ…伝えられてよかった!(コウタから離れて駆け出す)」
コウタ「リナ!」
リナ「今度の日曜日!タピオカ奢ってよねー!約束‼︎」
コウタ「…おう!分かった‼︎」
リナ「…」

ナレ②「前を向いて歩き出そうとするコウタに、リナは駆け寄って背中に抱きついて言いました」

リナ「私、あんたのこと好きだったんだ。気づいてなかったのはあんただけ。周りはみんな知ってたんだよ。ほんと、昔から鈍感だよね。まぁ…そういうところが好きだったんだけどさ」

ナレ①「リナが言葉を言い切る前に、再び雷が落ちました。閃光と轟音がリナの感覚を遮断しました。しばらくして、瞑った目をゆっくり開けると、コウタは居なくなっていました。リナは大人の姿に戻り、元いた場所で傘を落としたまま立ち尽くしていました」

リナ(M)「夢…だったのかな…」

ナレ①「リナは静かに目を閉じて、先ほどまでの時間を思い返してみました。コウタの言葉も体温も笑顔も、そのどれもが、脳裏に焼き付いていることをリナは確かめました」

リナ(M)「夢、でもいっか」

ナレ②「リナが目を開けると、雨が止みはじめており、傘を閉じて歩いている人もいます。雷は、もう遠くへ行ってしまいました。目の前には、薄くなった雲の隙間から久しぶりの太陽が顔を覗かせていました」


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