『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』ダブルキャストに関する覚書 後編

 ラオウとユリアは、ダブルキャストで役作りが明確に違いました。ダブルキャストの組み合わせによって4通りの世界観がありそうです。

① ラオウ(福井晶一さん、宮尾俊太郎さん)
 カリスマ性のあるパワー系の覇王(福井ラオウ)と、冷徹で優美な魔王(宮尾ラオウ)でした。人を人と思わず虫けらを見るような宮尾ラオウの眼差しと所作の美しさ、圧倒的な歌声でひれ伏さずにいられない福井ラオウ。お好みのラオウをお選びください。
 福井ラオウはたぶん黒馬と相思相愛だし、心酔する部下もいそうですが、宮尾ラオウの場合、馬は道具としか思っていなくて、部下は恐怖で従っていると思います。原作のイメージに近いのは福井ラオウ、でもこの舞台では、ユリアが『氷と炎』(歌唱披露の公式動画有り)で、ラオウを「氷」、ケンシロウを「炎」に喩えていて、氷に近いのは宮尾ラオウでしょう。二人のラオウの体温は絶対5度以上違います。

② ユリア(平原綾香さん、May’nさん)
 乱世に舞い降りた女神(平原ユリア)と、ケンシロウの婚約者である一人の女性(May’nユリア)という、全くタイプの違うユリアでした。『氷と炎』の中でユリアは、氷と炎のように背きあい戦う二人の男の間で、自分がなすべきことは何か? 問いかけます。
 ここで、ケンシロウへの愛よりも、もっと大きな「この世に生まれた使命」に目覚めて、ラオウも含め全ての人を救うべく乱世に降臨した女神として描かれるのが平原ユリア。『氷と炎』は神々しいまでにドラマチックに歌いあげられます。対してMay’nユリアは、あくまでもケンシロウの幼馴染である一人の女性でした。ラオウの願いを聞き入れる時の表情、ケンシロウと再会した時の距離感。二人のユリアの違いは細かいけれどはっきりしていて、物語全体に対する解釈にもかかわってくる気がしました。

③ レイ、ジュウザ役替わり(伊礼彼方さん、上原理生)
 これがまた、甲乙つけがたく良いのです。伊礼さんはレイとジュウザで硬軟をはっきりわけているので、ヴィーナスを従えて刹那に踊り歌うジュウザはどこまでもチャラくて(それだけに最後の将の為に命を賭ける落差に泣ける)、レイはかなり硬派な仕上がりでした。ジュウザのアドリブはやりたい放題で、レイは村の女性の手をけっこう冷たく振り払っていました。 
 上原レイは伊礼レイより優し目で、上原ジュウザは伊礼ジュウザより真面目、チャラさではなくエロさで押してきます。演者の個性を楽しむ役替わりなので、どちらの組み合わせて観ても楽しめる代わりに、結局もう一方の役も観ずにいられなくなるという悩ましい問題です。私はタイプの違う二人のジュウザをどちらも楽しめたので、レイで選ぶとするなら……上原レイ、伊礼ジュウザの組み合わせに一票。

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