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「バフェット氏の総合商社投資から読み解く株式投資戦略」について考えてみました

「バフェット氏の総合商社投資から読み解く株式投資戦略」

米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイ(以下、バークシャー)が、日本の総合商社5社に投資したことを公表してから1ヵ月余り経ちました。NHKの人気番組「チュちゃんに叱られる!」の「たぶんこうだったんじゃないか劇場」ではないですが、この間、多くのメディアコメンテーター、証券ストラテジストなどがその理由を解説しています。そうした見解も踏まえ、今回のnoteではバフェット氏の投資哲学と総合商社5社に投資する整合性、今回のバフェット氏の投資行動から読み取れる今後の投資戦略、その留意点を整理してみることにしました。

8月末、バークシャーは65億ドル(約6900億円)を投じて、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の株式を5%強ずつ取得したこと、さらに、総合商社各社の保有比率を最大9.9%まで高める可能性を明らかにしています。まず、長期にわたるバリュー株投資が特徴のバークシャーの投資方針と総合商社5社に投資する整合性についてみていくことにします。バークシャーの投資3大原則は、
①投資尺度から見た株価の割安さ、
②事業の分かりやすさ、
③ライバル企業に対する競争力で、経営者のマネジメントカと株主重視の経営を重視します。

株価が割安かという点に関しては、投資基準に当てはまります。1社を除きPBR(株価純資産倍率)が0.7〜0.8倍と解散価値を下回っており、配当利回りから見ても3%台半〜5%台と魅力的に見えるためです。資源エネルギーからコンビニのような生活関連まで幅広い事業を展開する総合商社は一般にはわかりにくい業態と言われています。ですが、バークシャーは傘下に事業会社や保険会社を持つ持ち株会社です。それだけに、外部環境に対応して柔軟に事業ポートフォリオへの投融資を変化させていく事業内容を把握しやすかったとみられます。

一方で、ライバル企業に対する競争力を判断出来ているのかは疑間が残ります。そのため、将来に対する不確実性を回避するためにも初動としては総合商社5社に分散投資をすることを選択。経営陣とのエンゲージメントなどの結果次第で投資比率に差をつける時間的な余地を残しておく方が得策と判断したのかもしれません。

次に、バークシャーが総合商社5社に投資することを決断した重要な投資環境を整理したうえでその決断の背景に迫っていきたいと思います。ヒントになるのが、以下にあげる4つの投資環境の激変になります。

①米国大統領選の帰結、米中対立の激化などにより不確実性が高まりつつある。

②FRBの過去に例のない金融緩和により低金利の長期継続とドルに対する通貨価値下落懸念が高まっている。FRBのパウェエル議長は9月のFOMCで少なくとも2023年までゼロ金利政策を維持する方針を示している。

③世界的な金融緩和で株式、特に米国ハイテク大型株に投資資金が流入した結果、米国株全体の割安感が薄れてきている。

④米ドルを始めとして主要国通貨供給量が金融政策として急増するなか、価値保蔵手段として実物資産が見直されつつある。

こうした投資環境の変化とバリュー株投資の本質を考え合わせると、バークシャーが日本の総合商社5社に投資する本音を垣間見ることが出来ます。キーワードは対象地域・業種に対する分散投資です。具体的には、
①米国株は米国ハイテク株を筆頭に全般に割高に買われてきているだけに米国集中投資にはリスクがある、
②実物資産価値が相対的に高まる局面にあるとみていることから、貴金属やコモディティ価格に連動しやすいバリュー銘柄に投資チャンスが到来している、
③高配当株投資の魅力が高まってきている、などのポイントを指摘できます。
財閥系の大手総合商社ではコモディティに対する事業依存度が高く、今回の投資に先駆けて産金会社に投資したのも実物資産に投資する重要性を示していると判断できます。

ところで、バフェット氏はオークツリー・キャピタルの共同創業者であるハワード・マークス氏の投資見解を重視しているそうです。それほど、同氏はこれまでの経験を活かして的確な投資情報を発信しています。先日のテレビ東京の番組でも、投資環境と世界株に対する見方を解説していました。要旨として、
①ゼロ金利が市場をゆがめている、
②不確実性に備える時期である、
③投資先は「よい会社」ではなく、「良いトレード」かどうかが問題であると述べています。
しばらく金利は上がらないし、投資リターンが下がる傾向も指摘しています。バフェット氏が総合商社5社に対する投資方針に一部共通点を見出すことが出来るのではないでしょうか。

最後に、今回のバークシャーによる総合商社株投資のインプリケーションを示してこのメモを終わりたいと思います。米国株、例えば、アップル、コカ・コーラなどから幾分なりとも国際分散投資に動き始めたという点です。また、バリュー株投資の中で、実物資産と配当利回りに目を向けていることも注目点の一つです。もう1つ挙げるとすると、投資方針の大原則は守りながらも投資方針が進化するというビジネスパートナーであるチャーリー・マンガー氏も指摘している点になります。

ただし、バフェット氏は普通の人が自分のようにうまく投資できるようになることを懐疑的にみています。投資先とすれば、手数料の低いインデックスファンドへの投資を薦めていることを付記しておきます。なお、よく今回のバークシャーの投資判断から日本株に対する影響はという質問をみかけることがありますが、影響は限定的と考えます。日本の総合商社の情報開示はIR活動を含めて我が国上場企業の中でもトップレベルにあります。その中で、バークシャーという大株主が出現したことから、情報開示のさらなる進化に加えコーポレートガバナンスの向上も期待できます。総合商社に限ればプラス効果がない訳ではありません。

今回のnoteの参考書籍・資料は、ハワード・マークス氏の著書である「市場サイクルを見極める」(日本経済新聞出版)、バフェット氏及びマンガー氏による著作です。マークス氏の著書はあまり紹介される機会が少ないので目を通しておいた方がいいかもしれません。

Malon, 10. 5. 2020

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