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「寡黙さ」がもたらしていたもの ~【櫻坂46】舞台に上がる前の心構え~

欅坂けやきざか46が櫻坂さくらざか46に改名されてから、彼女たちのパフォーマンスに、今ひとつ満足が出来ていない自分がいることに気がつく。
昨年の1月23日にグループを脱退した平手さんの不在が、そうさせている要因の1つであることは認めざるを得ないが、それだけではない「何か」が決定的に違うように感じてしまう。

この違和感はどこから来るのだろうか。
欅坂46のラストライブで『Nobody's fault』の初披露を観てから、新曲の音源やMVが出る度に、この疑問に対する答えをずっと考えている。
もちろん、メンバーの皆さんのダンススキルも格段に向上しているし、歌もボイトレの効果か、以前より声量が増していて、聞いていても非常に心地よい。ビジュアルも元々の素材の良さに磨きがかかり、とても輝いている。
このようにグループとしての成長を、確実に感じることができるだが、何かが違うのである。

未だに結論が見えていない状態なので、ここからは、完全なる主観として読んでいただきたいのだが、グループ全体のバラエティ力が上がってきていることが、根本にあるような気がしてならない。
アイドルグループとしては、世間的な認知度を上げるという意味でも、歓迎すべき成長であることは確かであるが、アーティストとしては、演者としてのエネルギーが、無駄に放出されてしまう一因となっていないだろうか。

坂道グループは、グループごとに冠番組を持っている。乃木坂→櫻坂→日向坂と連続して観ていると、それぞれのグループの特性がよく分かる。
何かを探ろうとしているわけでもなく、単純に毎週楽しんで観ているだけなのだが、以前の『欅って、書けない?』時代と比較して、『そこ曲がったら櫻坂?』になってから、「おとなしくてしゃべらない」というイメージを変えていこうという意気込みを感じる。
バラエティ力が高く評価されている日向坂46の存在も、無視できないだろう。
その変化は、外番組への出演という結果に結びついているので、推している側としては嬉しいことなのであるが、それが、櫻坂46の最大の魅力であるパフォーマンスに影響を与えているとなると、話は変わってくる。

世阿弥が「秘すれば花」と表現しているように、舞台で演じる者には、寡黙な時間を持つことが求められる。今でも、舞台に上がる前は、誰とも話をせずに、意識を集中している演者は多い。

「話すは、離すに通じる」と言われているように、心に抱えていることを口に出して話すことは、心の中の思いを解き放つ効果がある。
気持ちが落ち込んでいる時には、話すことで心が軽くなり、プラスに働くのだが、パフォーマンスをする場合には、せっかく作りあげた気持ちが漏れ出すことに繋がるので、マイナスにしかならない。
舞台前は、寡黙に気持ちを作りあげる時間を大切にする必要があるのだ。

欅坂46時代は、外番組のみならず、自分たちの冠番組ですら、「お葬式」と揶揄されるくらい話をしない、おとなしいメンバーが多かった。
そんな彼女たちが、いざ歌やライブとなると、世間を釘付けにするパフォーマンスを見せてくれるというギャップが大きな魅力である。
いわば、寡黙な彼女たちが、ダンスという言葉(表現手段)を得て、内なる気持ちをぶつけるように饒舌に語りかけてくる、というのが魅力の根源なのだ。
彼女たちが、歌やダンスを通じて紡ぎ出す壮大なる物語ドラマに、アイドルなどに興味が無かった人々が魅了されるのである。

このことは、2017年から連続出演していた「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」でも証明されている。
欅坂46どころか、アイドルの歌もろくに知らない6万人以上の聴衆を一気に興奮の渦に巻き込むことに成功しているからである。これは、彼女たちのパフォーマンスに人々を惹きつける力があることの証しである。

アイドルとしての振る舞いと、アーティストとしての心構え。
この両立は、なかなかの難問である。
この課題に対して、どのように対処すればよいのだろうか。
グループの成長のためには、避けては通れない問題なのだが、すぐに出来ることとして、パフォーマンスをする際の内面を、以前にも増して、大きく深く繊細にしていくことで対応できるのではないかと考えている。
歌やダンス以外で放たれるエネルギーを、補って余りあるくらいのレベルまで、パフォーマンスをする際の心持ちをより大きく濃いものにしていくのだ。
彼女たちの存在自体から生み出される歌詞に曲がつき、その楽曲を受けて、メンバーやTAKAHIRO氏が、どのように表現すれば、人々にそれが伝わるかを練りに練っていくことで、櫻坂46のパフォーマンスは作り上げられていく。
 デビュー当時から、変わらずやってきたこのやり方を、さらにブラッシュアップし進化させて、とことん楽曲に向き合うことでしか、この大きな課題は乗り越えられないのかもしれない。


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