見出し画像

ブレイディヴェーグのGⅠ勝利にみられる、血統傾向の変遷(2)

 前回の記事は、ロードカナロアにおけるヌレイエフのクロスがテーマでした。そのなかで、ミスタープロスペクターの血を同時にクロスしているブレイディヴェーグは、過去の成功例とは違う珍しいパターンであることを書いています。ただ個人的に、ブレイディヴェーグのGⅠ勝利は、単なる例外的な事例として片付けてはいけないと考えています。むしろ今の傾向を象徴するものとして、もっと大きな意味があるのではないかと感じるのです。
 


 さていきなりですが、ここからはロードカナロアの配合論や、ヌレイエフのクロスのことから一旦離れます。今回は母の父・ディープインパクト産駒の傾向の変化がテーマです。


 僕はこれまでnoteやSNSなどで、母の父ディープインパクトについて、ふたつの傾向をお話ししてきました。ひとつは「ディープは母の父になるとブラックタイド化する」ということ。もうひとつは「母の父ディープ産駒は、牝馬に生まれると恩恵になりにくい」ということです。
 

 ディープインパクトは卓越した切れ味を武器にした競走馬。現役時代は “空を飛ぶ”と称されたほどです。種牡馬としてもその特徴は健在。産駒が挙げた勝ち星の9割近くを芝で占めており、瞬発力に優れた活躍馬を数多く輩出しました。ところが「母の父」としてのディープインパクトは、その傾向が変わります。ディープらしい切れ味を受け継いだ正統派は少なめ、どちらかと言えばパワーを武器にするタイプが多いのです。

 詳細は割愛しますが、ディープに伝わる切れ味は、ある意味では突然変異的なところがあります。ディープの全兄であるブラックタイドは、重厚な底力を武器とするタイプ。100%おなじ血統構成ですが、ぜんぜん“空を飛んでいない”ですよね? そんな兄に近くなるイメージです。ディープの血統自体は重厚な底力に富んだ構成。字面どおりに原点回帰したと見ることもできるでしょうか。パワーを伝えたとしても不思議ではありません。
 

 母の父になるとブラックタイド化することの影響として、牝馬の成績不振が挙げられます。

 母の父ディープ産駒で最初に重賞を勝ったのは、17年のキセキ(菊花賞)です。ドロドロの不良馬場をものともしない走りは、まさにブラックタイド化を恩恵を受けた1頭だったように思います。母の父ディープ産駒の重賞勝利は、そこから11走連続で牡馬でした。

 牝馬で最初に重賞を勝ったのは21年。アイビスSDのオールアットワンスでした。キセキの菊花賞から、実に3年半以上が経ったあとの出来事。まさか第1号が千直競馬とは思いませんでしたね。これもブラックタイド化でタフに変貌した影響と言えるのかもしれません。

 牡馬に比べて、牝馬は先天的に筋力で劣ります。そのぶん、しなやかさや繊細なスピードで走らなくてはなりません。重厚化したディープの資質では、かえって女性的な強みを活かしづらくなるのでしょう。牝馬が不振の理由は、そういうところに要因があったように思います。
 

 オールアットワンスが勝った当時は、“珍しいものを見た”くらいな感覚で受け流してしまったのですが、これが大きな誤りでした。この勝利こそが潮目の変わり目であったことを、すぐに実感することになります。

 同年にアンドヴァラナウトがローズSを勝つと、翌22年はプレサージュリフト、マリアエレーナ、ボンボヤージと、牝馬が次々と重賞を勝利。そしてついにジェラルディーナがエリザベス女王杯を勝ち、GⅠ馬まで誕生してしまいました。21年夏~22年末に母父ディープ産駒が挙げた重賞勝利は、牡馬が5勝だったのに対して、牝馬は7勝。傾向が一変しています。

 今年もビッグリボン、オールアットワンス、マスクトディーヴァ、ディヴィーナが重賞を勝利。エリザベス女王杯でもブレイディヴェーグが勝ち、昨年につづいて母の父ディープ牝駒が連覇しています。最初に書いた「母の父ディープ産駒は、牝馬に生まれると恩恵になりにくい」ことについては、完全に過去のものと言っていいでしょう。


 前回の記事で書いた、ヌレイエフとミスタープロスペクターを同時にクロスしたカナロア産駒からブレイディヴェーグがでたこと。そして今回書いた、母の父ディープインパクト産駒の傾向が変わったこと。一見無関係に思える二つの流れですが、広い視点でみると実は繋がっているのではないかと考えています。最終回の次回はそのお話です。


※以下の記事につづきます


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?