くりちょこ編集委員会のコピーのコピー

受付で「あとどれくらい待つの?」

 あとどれくらい待つか。待ち時間の長さ自体は、病院に比べたらマシとはいえど、ときには数分だって、無為に待つのは耐えられないこともある。予約制か否かをとわず、クリニックで日常的によく尋ねられる質問です。混雑時限定とも限らず、油断大敵です。

 診療のシステムや方針によって、適切な答えかたは違います。質問した動機、患者さんのタイプによっても、考えるべき範囲が変わったりします。残念ながら、「こう言っておけば大丈夫!」な魔法のフレーズは、ありません。

 「大丈夫!」には足りませんが、「最低限これだけは!」の3箇条をご紹介します。あくまで最低限ですから、貴院のカラーで色付け・味付けを施してください。

◆ 判断の材料になる
◆ 確実な情報
◆ 質問の背景


判断の材料になる情報を届ける

◇ どうとでもとれる言葉を使わない

「長くおまたせして誠に申し訳ございません」

 意図的ではないのでしょうが、質問した側の立場では、聞いたことに答えてもらえず、はぐらかされたように聞こえます。イラッとした感情では、丁寧すぎる言葉づかいが、よけい憎々しく思われることも多々あり。「『申し訳ござる』なんていう日本語ないし!」と重箱の隅をつつきたくもなるもんです。

 わからないなら「わからない」と率直に伝えるほうが、患者さんが得られる利便性は上がります。「わからないんだな」がわかり、心構えと善後策を準備できるので。もちろん、つっけんどんな応対はNGですけど。

「もうすぐだと存じます」 

「もうすぐ」は曲者。時間とお金に関しては、主観的な言葉は使わないのが鉄則です。「少々」「しばらく」「まだだいぶ」も同類ですね。

◇ 具体的に

 時間がわからなければ、あと何人目に呼ばれるかだけでもわかると、不快感は軽減されます。

 あと5人待ちなら、次の人が1人呼ばれたら「あと4人」、その次の人が呼ばれたら……と、同じ時間を待つのでも、段階的なミニゴールが見えてきます。

 交通機関でも、遅延のときに、「信号点検しております」「点検を終えて動き出しました」「いま前の駅に着いたところです」のように、無為に待つ苦痛の緩和を図るアナウンスがありますね。

 これは、深刻なクレームへの発展を回避する効果もあります。わけがわからず待つだけの状態は怒りを生じさせますが、理由がやむを得ないものであり、配慮が伝われば、攻撃的な怒りは緩和されるのです。

確実な情報

◇ 「どれくらい」への回答が時間とは限らない

 時間が前後するなら「あと何分」より「何番目」のほうが確実でしょう。

 わかるものなら「あと何分」のほうが知りたい。とはいえ、それが不確定なら、その時点で明確になっている事実を伝えるだけでも役立ちます。あと何人かの情報を材料に、かかりそうな時間を推定するとか、診察の状況から後の用事に間に合わなさそうなら、日を改めるとか。自分の予測がずれたとて、自分の責任だと、大人は理解しています。

◇ 時間が読める場合

 時間をお伝えする場合、院内で待っていただくなら、実際にかかりそうな時間よりも、長めにお伝えする。それでも万が一、伝えた時間にも遅れたら、声掛けが必須です。

 一方、順番が近づくまで外出されるなら、短めにお伝えする手もありえます。

 どの医院さんでも実施していることですが、時間をお伝えする場合は、前提条件もあわせてお伝えします。「次の次にお呼びするので、あと○分くらいだと思います。診察の状況によって長くなる場合もあるので、絶対ではないのですが」のような。

 エクスキューズという目的だけでなく、「このくらいかかりそうだが確実ではない」旨を説明しているときの、患者さんの表情を観察できるのがポイントです。この患者さんは、時間を聞くことによって、何を望まれているのか。その手がかりを探れます。

質問の背景

 患者さんが、「あとどれくらいかかるか」と尋ねるとき、「かかる時間を知ること」が最大の望みとは限りません。

 自分の順番が抜かされたんじゃないかと心配。
 体調がだいぶ悪くなってきて、これ以上座って待っていられない。
 だいぶかかるなら今日はやめておこうかな。

 人は、本当の要望はストレートには言いにくいものです。本当の要望は言葉には出されず、聞きやすい質問として表現される場合があります。

 あとどれくらいかかるかを正確にお伝えすることよりも、患者さんの本当の要望に配慮した対応ができれば、ただ時間がわかることでは得られない満足感につながります。


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