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翻訳文学を読む理由▶︎チャーリー

横浜読書会KURIBOOKSの映画祭の司会を担当しています チャーリー です。

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自分は翻訳文学(海外作品)が好きだ。

もともとは70年代後半に角川文庫が仕掛けた本格推理小説ブームにのって、日本の推理小説から、海外の推理小説を読むようになった。本格的に読むようになったのは、80年代後半、大学生だった頃に読んだ本がきっかけだった。

ジョン・アーヴィング 「ガープの世界」(John Winslow Irving “The World According to Garp”)

アーヴィングという作家を知ったのは村上春樹からだった。村上氏の何かの作品の解説か、あとがきで、彼がアーヴィングの処女作「熊を放つ」( “Setting Free the Bears”)を翻訳したという話が出てきたので、早速読んでみた。この「熊を放つ」はジョン・アーヴィングの処女長編作品で、面白かったものの、自分には難解な部分も多かった。ただ、アーヴィングの代表作、最もヒットした作品は「ガープの世界」だということを知って、読んでみたのだ。

驚いた。

「ガープの世界」はT・S・ガープという主人公の男性がどうやってこの世に生を授かることになったか?というところから始まり、彼が青年に成長し、結婚して、息子ができ、夫婦間のトラブルや、近親者の死などを経て、やがて彼自身が唐突な死を迎えるまでが描かれている。

アメリカが銃社会であるということも影響していると思うが、人が生きていく中では、理不尽な暴力に直面したり、愛情が交錯したり、事故や事件で近親者を失ったりする事は誰にでも起こる事と言える。それを豊富なエピソードの積み重ねで綴っていくのがジョン・アーヴィングの語る長編小説、すなわち「アーヴィングの世界」だ。
「ガープの世界」の中でも、主人公のガープは奇妙とも言える形でこの世に生を受けるし、女性に性転換する元アメリカン・フットボールのスター選手、レイプ犯によって舌を切り落とされた女性、などなどひとクセもふたクセもある人物が出てくる。
そして、それらの人物が絡む話はセンセーショナルな事件であったり、非常に寓話的とも言える話であったりする。後にアーヴィングの作品をたくさん読むようになって気づいたが、アーヴィングの書く小説には「熊」、「ホテル」、「家族や兄弟」、「セックス」、「堕胎」などが繰り返し出てくる。アーヴィングがそこに何かを象徴させていたりするのは明らかだし、アーヴイングの作品の批評として「暴力とセックスと死に溢れた」という表現がよく使われるのもわかる。
そんな彼の作品を突拍子も無い物語だと感じる人も多いが、まるで話が主軸となるところから脱線するかのように広がりながら、結末に向かって語られる物語は魅力的だ。

「ガープの世界」の中で、出版社のオフィスの清掃を受け持つ老婦人にガープが小説を読む理由を聞くシーンがあったと思う。その老婦人は「次に何が起きるのか?」という好奇心以外に本を読む理由などないと断言する。まさにこの「ガープの世界」はそういう小説で、読み始めるとぐいぐいと「アーヴィングの世界」に引き込まれていくのだ。

また「ガープの世界」ではエピローグの様に、それぞれの人物の「その後」についても言及される。その登場人物が実際に存在していたかな様な錯覚を覚えさせる演出だ。

まだ二十歳そこそこだった僕はこうして「ガープの世界」に引き込まれていき、たちまち「アーヴィングの世界」の虜になった。

そして、そこから他の作家へと読み進み、すっかり翻訳文学の虜になってしまった。

そのあたりについてはまた次の機会に。

ちなみに「ガープの世界」はロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)主演で映画化もされている。流石にこの長編作品を2時間ちょっとに収め切ることはできていないが、ロビン・ウィリアムズ〈あぁ、彼がもうこの世にいないなんて…)の名演に加えて、グレン・クローズ(Glenn Close)、ジョン・リスゴー(John Lithgow)などの名優が脇を固め、映画は映画として楽しめる作品だと思う。

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【投稿者】チャーリー

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