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田中くんが吃る理由▶︎チャーリー

横浜読書会KURIBOOKSの映画祭の司会を担当しています チャーリー です。

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「吃る(どもる)」という事について、あなたはどこまでご存知だろうか?

僕の周りにも吃りをもつ人たちがいた。
息子が小学生の頃まで通っていた理髪店。チェーン店で、店長の田中くんはまだ20代の独身だった。僕もそこの理髪店に通っていて、髪を刈ってくれてる間、田中くんと色々と話をしたが、田中くんは少しだが吃ることがあった。話始める時、その冒頭の音がなかなか出てこず苦労することや、同じ音を繰り返してしまうことがあった。
しかし、語り始めるとそのあとはスムースに言葉が出てくる。

さて、冒頭の質問に戻ろう。あなたは吃るという事について、どれだけご存知だろうか?

  • 吃りの真似をしていると、吃るようになってしまう。

  • 吃りは遺伝する。

  • 正しい訓練を受ければ吃りは治せる。

残念ながら、どれも不正解。いや、むしろそういう根拠のない見解が広まっていたがために、吃音を持つ人たちは誤解され、蔑まれ、時には「治療法」なるものに誘われて騙されるという事を繰り返してきたとさえいえる。

「吃音:伝えられないもどかしさ」 近藤雄生著

は、或る男子高校生自殺未遂から始まる。
彼は吃音に悩み、飛び降り自殺をする。しかし、奇跡的に助かってしまう。そして、彼は再び吃音に悩みながら、生き続けることになった。
自殺未遂から20年ほどして、彼が或るテレビ番組に出演し、吃音についての悩みを語っているところを著者の近藤氏が視聴していた。嘗ては自分自身も吃音を抱えていた近藤氏は彼を取材することにする。そして、彼がもう一度吃音を矯正しようとする姿を追いかけるとともに、改めて吃音というものに対する日本社会における誤解や問題点、吃音に苦しむ人たち、それを苦にして自殺した人の遺族、吃音を矯正する方法を探る人たちを取材していく。

冒頭の誤りを訂正すると、
吃音の原因はわかっていない。
吃りを真似すると吃るようになるという誤解は、訓練すれば吃りは治せるという更なる誤解を生み出している。
確かに或る方法で吃りが治った人もいるかもしれないが、原因がわかっていないので、吃る人全員に有効な方法もまたわかっていないというのが現実だ。
一方で、そういう「治療法」を売りにして、吃りを治したいという切実な願いを持つ人々から治療費を取るビジネスが横行してしまっている。

本書の最後に、七十歳を超えた老人が吃音を矯正する訓練を受けたいと訪ねてくるくだりが出てくる。吃る事なく流暢に喋りたいというのは、吃音を持つ人にとっては、例えあと何年生きるかという老人になったとしても、何よりも強く願う事なのだ。

さて、理髪店の田中くんはその後どうしたか?

残念ながら、息子が高校生になった頃に彼は実家の理髪店を継ぐために、働いていた店を辞めてしまったので、それ以来会えていない。
ただ、その後も年賀状だけは届いている。その毎年の年賀状を追いかけると、田中くんは結婚をして、子どもが生まれたという。

また田中くんに髪を切ってもらいながら話をしてみたいと思う。田中くんはまだ吃りがあるだろうか?いや、僕にはそんな事はどうでもいい。また田中くんと話ができるのならば。

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チャーリー

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