見出し画像

ノンフィクションを読む理由▶︎チャーリー

横浜読書会KURIBOOKSの映画祭の司会を担当しています チャーリー です。

横浜読書会KURIBOOKS - 知的好奇心を解き放とう~参加者募集中~

僕は小説も読みますがノンフィクションも読みます。最近はノンフィクションの方が多めかもしれません。

僕はノンフィクションにできて、小説にはできない事があると思います。

小説は全てその作家の空想です。だから、その物語を語れるのは作者一人だけ。小説には作者以外の視点が入りようがなく、作者以外がその小説を書くことはできない。

一方でノンフィクションは実際に起きた事が基礎になります。或る出来事の当事者や関係者が自ら記録を残していたり、彼らへの取材などによって構成されています。
よって、それらの情報さえ入手できれば誰でも書くことができるのがノンフィクション。
実際、同じ出来事について複数の人が複数の視点から書いた本がいくつも出版されることも珍しくなかつたりします。
ただ、同じ出来事について書いたとしても、書く人が変わればそれぞれの立ち位置が異なるので、解釈の違いが生じます。また同じ出来事のどこに重点を置くかによって、話の重点が変わってきます。

「原子爆弾の誕生」 リチャード・ローズ著 (“The Making Of The Atomic Bomb” by Richard Rhodes)

ここには原爆開発以前の原子や原子核、連鎖反応の発見に至る研究から、原爆開発に関わった科学者、軍人も政治家も、その情報をソ連に渡していたスパイたちも出てきます。ここに原爆開発の全てが書かれていると言っても過言ではありません。上下巻に分かれ、それぞれ700ページ以上になる大作であり、ピューリッツァ賞を受賞した名作です。

一方で、この本の中にほんの数行、ナチス・ドイツの原爆開発計画を阻止するためにノルウェーにあった化学工場が爆破されたという出来事が書かれています。

ノルウェーは当時ナチスに占領されていました。
当時のナチスの科学者は原爆開発において「重水」と呼ばれる液体が必要と考えていました。しかし、重水はノルウェーのノルスク・ハイドロ社の工場でしか生産がされていませんでした。それ故にナチスはこの工場を占拠し、厳重に監視していました。それに対し、ノルウェー軍はイギリス軍の支援を受けつつ、この工場の爆破工作を試みたのです。
作戦は何度も失敗を繰り返しましたが、最終的には爆破に成功しました。

ただ、この出来事はアメリカの原爆開発計画にとっては傍流の話なので、「原子爆弾の誕生」の中ではほんの数行でこの件に触れているに過ぎないのです。

しかし、ノルウェー軍の立場に立てば、視点と重点を変えれば、この作戦はノルウェー、イギリス、そしてナチス・ドイツの軍人、科学者、化学工場を持つ会社の経営陣、そこで働く人々などが複雑に絡み合うドラマということになります。

「ヒトラーの原爆開発を阻止せよ!―“冬の要塞"ヴェモルク重水工場破壊工作― 」ニール・バスコム著(”The Winter Fortress:The Epic Mission To Sabotage Hitler’s Atomic Bomb” by Neal Bascomb)

はこのノルウェーの工場の破壊工作を行ったノルウェーの特殊部隊の失敗と成功について書かれたノンフィクションであり、500ページ以上ある大作です。

ある本ではたった数行にしかならなかった出来事が、別の本で500ページかけて語られる、そして、どちらの物語もこの「世界」という一つの空間の、同じ時代の一部であり、一つのものを別の角度から、焦点と俯瞰する距離を変えて描かれたもの。

小説は物語のために架空のキャラクターが行動する、言い換えると、それぞれの小説の登場人物は別々の世界の別々の物語のために存在していると言えます。

ノンフィクションはただの一人として物語として語られるために行動したのではありません。ただただ、生きるために行動したことが記録に残ったもの。すべてのノンフィクションは「現実」という一つの世界の中、一つの時空の中で繋がっているとも言えると思うのです。

勿論、小説は面白い。次の展開か楽しみで頁をめくる感覚は何者にも変え難い。

しかし、この自分がいる世界と、空間と、時間を超えて繋がっている出来事について語られるノンフィクションには、また独特の素晴らしさがあると僕は感じるのです。

横浜読書会KURIBOOKS - 知的好奇心を解き放とう~参加者募集中~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?