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飲食店のテイクアウト構造について考えてみた

コロナウィルスによる緊急事態宣言と自粛要請で外食産業に急速に広がっているデリバリーとテイクアウトについて考えてみた。

飲食業界を取り巻く環境

 飲食店の売り上げはコロナウィルスの騒ぎが始まった2020年1月から落ち始め、各国各都市のロックダウンが始まりコロナ禍が騒がしくなってきた2月下旬から3月にかけて加速度的に売り上げが減少し、4月の緊急事態宣言でその苦境は決定的なものになった。
消費者も「自分が通うことで大好きな店を支える」と勢い勇んで足しげく通っていた3月の支援モードは既にどこ吹く風。4月7日の緊急事態宣言以降、そんなことを言ってくれていた客のモードは自粛モードに次々と切り替わっていった。都心部の店では売り上げが半分以下は当たり前で前年の1~2割という店もざらにあった。

【参考】帝国データバンク 98.%の飲食店の3月の月次売上高が減少
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200411.html

緊急事態宣言下で各都道府県の飲食店に対する休業・時短要請は各都道府県の知事に一任されたため、休業要請も飲食店に対する支援策も都道府県によってばらつきがある。
 支援については様々な考え方があると思うが、東京は人件費も家賃も高いので他県よりは手厚い支援が必要ということは明白だ。今回は緊急事態宣言に基づく都道府県によるスピード重視の支援なので支援内容について満足のいくものではないと思われるがそれでもこの支援だけでこのコロナ禍を乗り切れと言われると飲食店としては辛いものがあるだろう。
 コロナ禍の影響が直撃し、売上が立たない中で人件費、家賃などの固定費を支払わなければならない飲食業界は生き残るために必死だ。テイクアウトやデリバリーの導入は生き残りをかけた飲食店の苦渋の決断であることが以下の考察から推察できる。

簡単ではないテイクアウト/デリバリーの導入

 まず、知っておくべきことは、イートイン主体で運営していた店がテイクアウトを導入するのはものすごいパワーが必要だということだ。素人的に考えればイートインの商品をそのままテイクアウト用の包材に入れて売れば良いと考えるかもしれないが、調理する側からすればイートイン商品とテイクアウト商品は本質的に違っていて、調理の仕方も大いに異なる。テイクアウトを考慮すると既存店のキッチンの作り、設備、なんかにも無駄や足りないものが多くあることに気づいたりもする。
 通常、イートインの飲食店は利益率がそれほど高くないレギュラーメニューと飲料等の利益率の高いサイドメニューを組みあわせることで商売を成り立たせているので専門店でない限り、テイクアウトやデリバリーは売上の柱にはなり得ない。また、イートイン店は飲食業で食品産業ではないので、利益率が高く、評判の人気メニューを簡単に作れるわけではない。結果、店がテイクアウトメニューを開発しても利益率の低いもので構成せざるを得ない傾向になる。つまり、低い利益率と売上回転率が大して良くないものを包材等のアディショナルコストを含めた金額で売ることになる。

 では、デリバリーはどうだろうか。今、飲食業界の中でテイクアウトに次いで導入が次々と進んでいるのがUber Eats(ウーバーイーツ)等を活用したデリバリーサービスだ。デリバリーはテイクアウトの包材に加え、そこそこな配送コスト/手数料をかけなければならないので一般的にテイクアウトよりさらに利益率が下がる。加えて、Uber Eatsの場合は衛生事故があった場合、配達員または店が責任を負う仕組みになっていてUber自体は何もしてくれないのでイートインには無かった新たなリスクが加わる。
(※出前館は、出前館自体が保険に加入していてと補償体制が整備されている)
 こういったところからも飲食店がなんとか売り上げを立てようと必死になっている様相が垣間見えるが、上記のことからテイクアウト/デリバリーが店の危機的状況を救うものにはなりえず、その場しのぎの対策にしかならないことが判る。

テイクアウトは飲食店運営ではリスキー!? 

 テイクアウトがコロナショックを生き抜くための手段であることは明白だ。現状、テイクアウトデビューのお店のお弁当の多くは、作り貯めしたものを陳列していることが多いが、これだと素早く提供できる一方、食中毒リスクが上がる。日本はこれからの時期、最高気温25度を越え、梅雨に向かって湿度が上がっていくので衛生面に関して一層の気を付けなければならない。特にテイクアウトの場合、購入された飲食物がテイクアウト後、いつ食べられるのか、どんな環境に置かれるのか店側は管理できない。万が一にでも食中毒事件など起こしてしまうとそれで店が吹っ飛んでしまう可能性もあるわけなので慎重を期す必要がある。悪意のある客による金銭目的のクレームが入らないとも限らないため、不安要素が増える。

通常価格で購入することはあまり店の助けにならない

 テレビで芸能人等が紹介しているテイクアウト弁当とかを見ると「高いなぁ」と感じる人がほとんどではないだろうか。高いのは高級店のテイクアウト商品だからという訳ではない。
 そもそも日本のランチは高単価が見込めるディナーに来てもらうための撒き餌的な側面があり、店側としては同じ時間、同じ場所に人を集め、限定したメニュー、安定した予想来客数によって辛うじて成立する「薄利多売」の構造になっている。店側が馬鹿正直にしっかり利益を確保する値段でテイクアウト商品を販売すると値段が通常のランチからは考えられない値段になる。店で食べるより味が落ち、店の雰囲気・サービス提供が無いにも関わらず普段より高い値段になっている商品を買う人は少ないので店側は買ってもらえるぎりぎりの値段を設定し、販売している
 ただ、テイクアウト用の仕込みはとても大変で調理人の労働時間が増え、更に包材のコストがかかるのでいつものランチ価格で提供するという訳にはいかず、高めの値段設定にせざるを得ないのが実情だ。
 店側は苦渋の決断だ。自粛により営業が制限されている中でも仕入先を困らせないこと、食材の在庫を抱えていること、従業員の雇用を守り続けなければならないことなどの理由により店側は薄利でも売れ残りリスクがあってもテイクアウト・デリバリーを導入して店を回さなければならない。
 レストランの作る料理はその店でその空間で作りたてのものを食べるからこそ値段に見合った価値があるのであって、家に帰って食べるテイクアウト商品に通常と同じ値段に抵抗があるという一般消費者の理屈は理解できる。しかし、テイクアウト・デリバリー商品をいつもの値段で販売していることの店側の努力に消費者は理解を示すべきだ。高い、いつもと変わらないとクレームを入れる前に客は薄利多売構造のランチは、支援客の売り上げだけで成り立たないということを理解する必要がある。

法令は守ったほうが良いと思う

 こういった厳しい状況下に置かれていても飲食店が守らなければならいことはある。食品衛生法だ。
 飲食店は、食品衛生法に基づく営業許可証により営業をしている。その範疇で、テイクアウトやデリバリーを実施することは何ら問題ないが、営業許可の範囲外で営業をしている店舗もちらほら出てきているのも事実だ。例えば、飲食店の営業許可で営業している店の場合、家で調理が必要になるもの、単品商品等はテイクアウト品として販売できない。なぜなら食品衛生法では飲食店が、テイクアウト・デリバリーできる商品は、「そのもので一食の体を成すこと」に限定しているからだ。単品メニューのように、おかずだけを販売してしまうと、「惣菜製造業」という違う業種の申請・許可が必要になる。
 また、テイクアウト商品は調理場の衛生状況次第で食中毒リスクが大きく変わるのでテイクアウトとイートインでは保健所の審査も異なる。例えば、ソフトクリーム等その場で食べるものと蓋つきの家に持ち帰るアイスクリーム販売所は保健所の審査基準が異なる。テイクアウト商品なのにイートインと同様に10%の消費税を取っているケースなんかもあるだろう。
 緊急時だからといって食品衛生法や消費税法をおざなりにしている店があるとしたら認識を改める必要がある。世間からの信頼を失うと結果的に店の将来を奪うことになるので法令順守と安全安心なものをお客様に召し上がっていただくという根本的な信念は見失うべきではない。飲食店は、「お客様の健康・安心・安全」を守るという使命を忘れてはならない。

まとめ

 デリバリー・テイクアウトは決して店の助けにはならない緊急措置だ。出来ることならやりたくないというのが飲食店側の本音だが、生き残るためには何でもやらなければならない。今まで店舗を運営していくうえではリーマンショックや震災など苦しいことが多々あったが、前に進むため何とか乗り切って来た。そんな飲食店も今回の終わりの見えないコロナショックにより立ち上がることもできないほどのダメージを受けている。半ばあきらめがちになっている人たちもたくさんいるだろう。けど、こんな時だからこそお互いに助け合って乗り越えていくしかない。
 我々、一般消費者は飲食店の実情を知ったうえで多少値段が高くても寛容な心持と支援の気持ちをもってテイクアウト商品を購入することが大事だ。実は、皆が買うことで支援の輪が回っている。飲食店が店を回していることで飲食店は仕入先を助けている。助け合いの精神は大事だ。毎日買う必要はない。
飲食店は購入してくれる客に一層の感謝をしつつ、人の命を預かる仕事をしていること、安全・安心な食事を提供する飲食業の責務を思い出してほしい。
自粛生活をしていると気づけないかもしれないが、良質で美味しい料理を適正な値段で販売してくれる飲食店は日本の宝だ。

日本の飲食店の灯を絶やしてはいけない。

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