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料理は「好み」

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今回は、とあるYoutube動画のコメント欄から、話題を拾ってみました。

とある料理動画のコメント欄にて。
「ある和食料理人の方は、『鶏モモは下処理でスジと脂を取れ、皮を剥げ』と教え、別の中華料理人の方は、『鶏モモのスジも脂も皮も旨みの一つ、取る必要はない』と教えている。いったいどっちが正しいのか?」
という内容のものがありました。

これはですね。
はっきり言ってしまえば、究極「好みの問題」です。

鶏が話題となったので、鶏を例にとります。
上記の、和食料理人の方と、中華料理人の方。二人の言い分が違う理由は、それぞれの方が目指す「料理の味の最終形」が違うからこそ、こういうくいちがいが起こるのです。
たとえば。

和食で、例えば鶏の入った煮物を考える時。
その鶏は、醤油の味がしみこみ、少しきゅっとしまっており、それでいてほろりと口の中で崩れ、においは煮物の他の根菜たちとなじむ味であることが理想です。
となると、例えば口で噛んだ時にスジがあると歯触りが気になりますし、脂の濃い香りがすると、煮物が台無しになってしまったりします。
逆に、中華料理の、たとえば唐揚げとかですと、高温の油で最終的に揚げるわけですから、白いスジもある程度柔らかくなっており、鶏単体を味わうので、鶏本来の味はできるだけ「多く」残っていた方がいい。ですのでスジを取る必要はなく、脂もまた、油と合わさって旨みを形成するのであっても良い、ということになります。

あとは、たとえば煮込みの際にアクを取るかどうか問題があったりします。
アクというのは、肉のアクと野菜のアクでは少し性質が違うので、分けて考えます。
肉のアクというのは、血の中に残った血中成分や菌その他のタンパク質成分などが、湯の温度で凝固したもののことです。
これは、嘗めてみるとわかるのですが、えぐみと生臭さをともなった、気持ちの悪いにおいと味がするものです。
ですので、肉から出るアクは、得てして取った方が無難です。
野菜のアクは、植物の中にある成分のうち、雑味をともなったものの総称で、湯に溶けず浮かんでくるものもあれば、シュウ酸などのようにそのまま水中に溶け込んでしまうものもあります。
えぐみや渋みとして認識され、雑味として取り除いた方がいい場合もあれば、たとえばゴボウ等のポリフェノールのように、味としてはややきつい味がすれど、栄養素として優秀なので敢えて取らないという選択をする場合もあったりします。

で。
上記の鶏にしろ、アクにしろ。また野菜の皮やヘタ、豚・牛肉の脂やスジ等々。
実は、(体に毒である場合は、もちろん取り除くべきなのですが)自分が食べておいしいと思えば取る必要などないし、まずいと思えば取ればいい、それだけのことなのです。好みです。

例えば自分は、トンカツを食べるとき、豚の脂身に近いスジの部分が一番旨いと思っておりますが、トンカツは油で揚げるのだからと、この脂身をごっそり取って作る方もいらっしゃいます。また、固くて歯にさわるからと、きちんと包丁を入れて切る方もいらっしゃいます。
(肉のスジに包丁を入れる理由は他にも、あらかじめ切っておくことで肉の反り返りを防ぐ、ということもあったりします)

ですので。自分がありだと思えばアクもスジも脂も残し、なしだと思えば取り去る。それだけのことです。

と、これを分かってしまうと。
なぜこの世に、たくさんのありとあらゆる方のレシピ本が存在するのか、その理由が分かろうというものです。
そう。
いろいろな味の取捨選択を、自らの舌の好みでより分けて作られた、いろいろな料理人さんのレシピ。
その中から、「あなたの」舌にぴたり合うものを探し出せれば。
次回からは、その人のレシピを参考にすると、実にうまい料理が作れる、いわば当たりを引く確率が格段に高まる、という理屈です。

ただ。
そこに行き着くためには、まずレシピ通りに作ってみて、次に自分なりのアレンジをほどこして(例えば、もう少し脂の濃い味が好みだから、今回は脂身を残したまま作ってみようとか、そういうこと)、自分で旨いと思うところを少しずつ、探っていく。
そのトライアンドエラー・積み重ねが必要、ということです。
最初からあたりを引ければ、そりゃそれが一番いいのですがね。

ちなみに、私がいろんな方のレシピを参考にし、一番自分の舌に合う、それでいて手間が適度に省けている、いわば「コスパのいい」レシピを作る人だと認識している料理人さんは、Youtubeでおなじみのリュウジさんです。
次に、これまたYoutuberの料理人、コウケンテツさん。
その次が、同率でイタリアンの鳥羽周作さんと、小倉知巳さん。
この方たちのレシピを、「レシピ通り作れるならば」、ほぼ失敗はありません。

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