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暮瀬堂日記〜羽田の虫の音

 羽田の海老取川には、使われなくなった羽田可動橋が今でも架かっているが、と言っても正確には架かってはおらず、船の航路を阻まぬよう斜交いになっている。

 空港側には羽田水上派出所、東京モノレール整備場駅などが見られ、警戒船が不審船に目を光らせている。川を挟んで内陸側にはクロノゲートやANA関連ビルなどと共に、公園と遊歩道(武蔵野の路)が整備され、ハゼ釣を楽しむ人たちもいる。


 水門の周りにはボートや小型の釣船が溜まり、プライベートで船釣りに出る人や、客を待つ釣船屋の姿を見かける。

 辺りに茂る草木の中からは、蝉に変わって虫の音が鳴り始めていた。
 小橋の上から竿を出す釣人のバケツの中はハゼが大漁であった。そして、小型船に乗り込む人たちが橋の下に降りると程なく、船長がロープを外して出航した。
 しかし、虫の音の旋律の一つが遠のいて行くのに気がついた。
 ーーまさか……
 と思いつつ耳をそばだてると、確かに同乗しているようだった。

   鳴く虫をのせて船出す漁師かな

 一句を手控えて、水を分ける航跡に目を細めていた。

(新暦九月十八日 旧暦八月ニ日 白露の節気 玄鳥去【つばめさる】候)

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