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暮瀬堂日記〜草の花

「草の花」と言う季語を実感し得たのは、俳諧に触れて幾年か後のことであった。

 紅葉した野草の中に、わずかに彩りを見せる花穂は、主張することなく開いていた。そんな花々に促されて図鑑や歳時記をめくったが、季題の枠組みに探すことは出来なかった。

 然るに、秋の歳時記半ば程に、「草の花」なる季題を垣間見て、季語の情趣を実感したのだった。傍題には「千草の花・百の花・草花」などが挙げられている。どこにでも咲く名もない秋の花を総じて言うのである。


 この日、路傍に見つけた白い花は粒ほどしかなく、誰にも気づかれずに咲いていた。可憐な花であるが、気の毒に名付けられたのは掃溜菊(ハキダメギク)である。世田谷区経堂の掃溜めで発見した牧野富太郎によって、その名が付けられたと言うが、哀れであるもまた床しい。
 往来した人はあれど、気にかけたのはヤマトシジミ一頭のみであったか。

  てふてふに一瞥さるゝ草の花

 一句を得たが、古俳諧でも多く詠まれているのを思い、

  草花の見頃としやがむ俳諧師

 などと、羨望の思いを込めて手控えた。


(新暦十一月四日 旧暦九月十九日 霜降の節気 楓蔦黃【もみじつたきばむ】候)

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