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暮瀬堂日記〜山吹と草紅葉

 木陰を歩いていると、思わず山吹が目に入った。春季に花を咲かせるのに、どうしたものか、と訝ってしまった。


 芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」は、初め芭蕉が中七下五「蛙飛びこむ水の音」を記すと、門弟の其角が上五「山吹や」を付けたが、芭蕉が風雅さを削ぎ落し「古池や」を成立させた、という逸話がある。
 これは、『古池に蛙が飛び込んで、チャポンと音がした』と言う句では無く、空間の深さや次元の重なりを表している。「山吹」のままでは、不易流行とはならなかったのではあるまいか。

 それにしても、秋に山吹を詠込むのはなかなか難しいもので、暫く観察を続けていた。

  山吹を見るたび囲む草紅葉

 八重の山吹ゆえに花が長持ちしたのだろうか、と周りに色づき始めた野草に、目を細めていた。
 

(新暦十月ニ十八日 旧暦九月十ニ日 霜降の節気 霎時施【こさめときどきふる】候)

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