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暮瀬堂日記〜炉開(ろびらき)

 母との電話の折に、旧宅に切られた囲炉裏の話になった。母が嫁いだ時にはすでにあったと言うから、五十年は越えていることになる。

 私達子供が幼い頃には落ちたりして危険だったのか、何度か塞がれたりしたものである。しかし、自在鈎に吊るされた鍋物の様子が今でも思い出され、そこで弾ける炭の音は、当時の記憶をフラッシュバックさせてくれるのだった。

  炉開いて灰にこぼるゝ煮汁かな

 冬季になり、初めて炉を開いて火を入れることを「炉開」と言う。幼少期、囲炉裏に火が入るのを見たときには毎年小躍りしたものだが、そういう風習も無くなり始めている。寂しいことであるが、次第に「使われなくなった季語」に扱われてしまうのだろう。

 それでも、埋もれてしまった季語や言葉を使って見るのも、また新たな発見があるに違いない。


(二〇二〇年 十一月十八日 水曜 陰暦十月四日 立冬の節気 金盞香【きんせんかさく】候)

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