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暮瀬堂日記〜落蟬

 会社から帰宅すると、マンションの陋屋玄関先に蟬が落ちていた。もう死んでいるのかと思ったが、仰向けになって元に戻れない様子であった。
 もがいているので空に放してやると、ジジジ、と呟いて街路樹の方に飛んでいった。

  落蟬を持てば思はぬ軽さかな

 とも思ったが、落命した蟬に対しての方が合っているのかもしれない。

  落蟬のからまる竹の箒かな

 かつて故郷で為した拙句であるが、落蟬を見ると思い出す一句を記したい。

  落蝉の仰向くは空深きゆゑ  宮坂 静生
 
(旧暦六月八日 大暑の節気 土潤溽暑し候)

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