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暮瀬堂日記〜箒木(ははきぎ)

 小さな公園から大きな防災公園を経て、海老取川に向っていると、数棟が建ち並ぶ団地の周りに、淡い緑の植木が見えるのだった。ゴールドクレストかとも思ったが、形が異なり丸みを帯びている。

 徐々に距離が縮まると、根元の辺りがほんのり紅くなつているのが分かった。列なって植えられており、陽のあたる部分から色が変わっているようだ。
 
 信号を渡ると、いよいよそれが箒木であることが分かった。角の無い姿に親近感が沸き、朗らかな気持ちにさせてくれる。


 近世以前にも詠まれて居るのだろうか、と改造社版「俳諧歳時記」を開くと、『年浪草』の季題説明を記載し、
  
  箒木の微雨にこぼれて鳴く蚊哉 柳雨
  箒木に兒かくれあふ夕かな   長翠

 が例句で取り上げてあった。柳雨は存ぜぬが、長翠は奥羽四天王の一人常世田長翠のことであろう。下総の人だが、酒田に縁が深いので身近に感じられる。

  近寄れば団地の垣根箒草

 拙い一句をしたため、海老取川に向かうことにした。


※箒木・箒草……ははきぎ。ははきぐさ。古くより草箒を作るために植えられた一年草。若葉や実は食用となり、「とんぶり」は箒木の実のことである。晩夏の季語。


(新暦十月ニ十ニ日 旧暦九月六日 寒露の節気 蟋蟀在戸【きりぎりすとにあり】候)

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