【ACⅥ小噺】エアちゃんの料理とレイヴンの話【二次創作】

大豊、大豊、世界の大豊が脳裏にこびりついて離れない紅月シオンです
今回は前回書いたエアちゃんの料理の続きとなります
前作はこちら↓

それではここから続きになります

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(料理とは難しいものなのですね……)
火力の調整や切り方一つにしても大きな違いが出ることをエアはデータベース越しに知っていたはずだった。
そしてその上で自分ならレイヴンに料理を作ることも可能だと。
しかしいざ実践してみればそれらに振り回され、中々望み通りのものは出来ないでいた。
エアの左右にはどれも満足がいかなかったのか、空けられた皿が微かな汁気だけを残し積み上げられている。
(ですがまだ材料はある、今までの経験で今度こそ)
用意された食材はその数を減らし、あと1食ほどを作るのが関の山だ。
しかしそれでもエアは諦めずに包丁を握り具材を切っていく。
フライパンに油を敷いてルビコニアンが主食としている刻んだワーム肉をルビコンネギと共に炒めていく。
(ここまでは順調です、何度も繰り返したんですから)
軽くワーム肉に箸を通し中に詰まった汁気が出てきたならルビコンキャロットと大豊芋を水と大豊特製の調味料、明ソースと天酒に味醂を足していく。
(あとは火を弱くして煮込むだけですね)
今までなら時間の短縮のために火を強火にしていたかもしれないが繰り返してきた失敗の中でエアもまた経験を積んでいた。
髪が混入しないようにつけていた三角巾を外し蓋越しに中身をのぞく。
沸騰した水分が鍋の中で蒸気に変わり中の具材に染み入る。
時折蓋を開けては箸で中身を攪拌させ、その間にエアはレイヴンの事を考える。
(……美味しいって言ってくれるでしょうか?)
初めての手料理、それも何度も失敗を重ねたものは自信も揺らいでいく。
ましてや初めて交信を受け取ってくれた相手だからこそその期待はプレッシャーとなってエアに圧し掛かる。
鍋の中身はそんな彼女の気も知らず暢気に回り続けるのだった。

皿に盛る前にお玉で一口分掬いその味をエアは確認する。
(状態は良好、いい出来です)
温かいうちに中身を3人分に分け、それを盆に載せて共同スペースまで運ぶ。
そこではレイヴンとウォルターが何をするでもなくそこにいた。
「エア?どうしたの?」
「レイヴン、昨日約束した通り私が料理を作りました。ですから食べてくれますか?」
「・・・・・・」
ウォルターは少しだけ苦い顔をするもそれを止めるのでもなくレイヴンに判断を任せている。
「エア、作ったの?」
「はい、少しでもレイヴンにルビコンの味を知ってもらいたくて……」
そう言うとレイヴンは軽く頭を振りその場に座る。
「お腹空いてた、ありがとうエア」
エアもその場に座り少し大きめに切ってあったワーム肉を摘まみレイヴンの口に運んでいく。
それをレイヴンはゆっくりと噛んでいく。
「ど、どうですか?レイヴン」
ゆっくりとそれを飲み込んだ後にレイヴンもまた複雑そうな顔をしてゆっくりと首を横に振った。
「ごめん、やっぱり味、分からないや」

「え?」
それは手にした箸を一瞬落としかねないほどの衝撃。
レイヴンの口から放たれたのは「美味しい」でも「不味い」でもなく「分からない」
その意図を確認すべくエアも自分の分を口に運ぶが先ほど確認した通りしっかりと味は伝わっている。
「こういう事だ、エア」
ウォルターもまた立ち上がってはエアが作った料理を口に運ぶ。
それを噛みしめた後にゆっくりと指を組んで顔を伏せる。
「621は強化手術中に脳の手術をした、その事は理解しているな?」
「はい、コーラルを注入する強化方法は知ってます」
だがコーラル自体に脳を傷つけるような効果はない。
多量摂取による中毒及び酩酊状態は確認されているがそれ以上人間を傷つける効果はない。
「そうだ、だがその手術中に事故が起きてな。脳の一部が損傷したという事だ」
その答えにエアの表情が崩れ、目の前のレイヴンに何かを感じていく。
「傷ついた場所はブローカ野と味覚野、どちらも傭兵稼業には不要と判断され捨て置かれた。そのせいで621はずっと味を感じられないままだ」
「そんな……」
事ここに至りようやくエアはウォルターの行動を理解し始めた。
エネルギーバーを渡していたのはこの事を知っていたから。
そして止めようとしたのもまたこの事を知っていたから。
だがそれとは別の感情がエアの中に生まれては顔を曇らせていく。
(同胞たちのせいではない、ですがそれが無ければレイヴンは)
エアが同胞と呼ぶコーラルに非を寄せたくはないがコーラルがあったからこそレイヴンが人としての幸せを喪った事。
その事にエアは苦しみ始めていた。
「エア、泣かないで」
レイヴンはそっとエアを抱き寄せ、拙いままでも言葉を伝えようとする。
「ウォルター、言う通り。最初、言っておくべき、ごめん」
「謝らないでください、レイヴン……」
どちらも悲しみに暮れる中でウォルターは再び箸を取りそれを口の中に運んだ。
「美味いぞ621、それにエア」
「ウォルター?」
「コーラルを見つければ金が手に入る、そうすれば再手術でお前も普通の暮らしが出来るはずだ。その時にまた作ってもらえ621」
「そっか、そうだね。ウォルターなら、信じられる」
そう言うとレイヴンもまた座って箸でエアが作った料理を口に運んでいく。
心なしかその顔は先ほどよりも喜んでいるようにも見える。
「エア、美味しい。おかわり、欲しい」
空っぽになった皿をエアに差し出し笑顔でお代わりを要求するレイヴン。
それを見るとエアも少しだけ顔をほころばせそれを受け取る。
「はい、すぐに用意します。まだたくさんありますから」
「・・・・・・ふっ」
鍋まで歩いていくエアを見送りようやくウォルターも笑顔を見せた。
「温かい食事か、いつ以来だろうな。こういうのは」
「ウォルター、久しぶり?」
「あぁ、もうだいぶ味わった事のない感触だ」
またウォルターの端が皿の中身を突く、微かな感傷と共に。

その後もエアは大豊やALLMIND経由で食材を取り寄せては腕が鈍らない様に定期的に料理を作っていた。
(待っていてくださいね、レイヴン)
それはいつかレイヴンが人生を取り戻した時に真っ先に食べて欲しいものがあるからこそ。
そして今でも人間らしい生活を送ってもらいたいからこそ。
今日も今日とて砲火が終われば暖かいものが待つ。
それがレイヴンの微かな楽しみになっていることをエアが知るのはまた別の話である。

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