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英会話産業のこと

90年代後半。当時、しきりにテレビCMを打っていたのが、全国に展開中だった大手の英会話教室でした。電車の車両内もそうだし、街のいたるところにもポスターが張られ、かなり広告に力を入れていたことを覚えています。

その都市の中心、路面店に教室を構え、大きな看板を掲げる。NHKラジオ英会話のテキストの裏表紙にも一面、広告を載せており、その頃の英語(英会話)学習者には馴染みの企業だったはずです。

私の周囲にも何人か、お試しに参加した人がいましたが、評判は芳しくはありませんでした。さもありなん。少人数で授業料もそこまで高くはない。それでいて、一等地に出店し、広告にもあれだけ、費用を投じる、ということは人件費はろくにかけていないはずです。

つまり、英語圏出身の若者にスーツを着せ、簡単な研修だけで、指導をさせる、というお手軽商法。ろくな授業はできなかったはずです。若者に、とありますが、ここは私の憶測です。しかし、間違ってないはず。

彼らの給与はおそらく月20万もなかったでしょう。この給与であれば、結婚できる額ではないから、短い期間で去っていったはずです。しかし、日本で働ける、ということから、英語圏出身の若者が次々、講師を希望してくる。

人材の供給には不足しない。また、広告を打てば、多くの日本人受講者も訪れる。かくして、英会話商法は全国に拡大。ライバルの参入を防ぐために、市場を急いで専有すべく、急激に広告を打ち続けていたのでしょう。

これと似た現象は家庭教師のト〇イでもあったでしょう。生徒の親にはいかにも、その生徒に相応しい家庭教師を選抜しているかのような印象の説明をしておきながら、大学生を採用し、簡単な説明だけで、生徒の自宅から近いだけの大学生を派遣する。

その大学生に対して、何ら採用試験も研修もなし。教材も生徒側が用意しなければなりません。これでろくな指導ができるわけがない。しかし、広告を派手に打ち続けることで多くの需要が喚起され、90年代後半、全国に急展開していきました。

広告をしきりに打っているからと言って、必ずしも、質が高いわけではないのです。むしろ、量を追及している分、質はかなり、犠牲にしているでしょう。

近年では、1000円カットがそうですね。これも大手が全国に急展開中。資本力にものをいわせ、全国のめぼしい所に急展開。広告を大量にうつ、とか質を犠牲にする、とかはないですが、市場を専有すべく、規模の拡大を急ぐ展開は似ているでしょう。

英語のことに話を戻します。私がかつて、通った海外の語学学校は講師は中年の人々も普通にいました。というより、大半は中年でした。彼らは専業の講師。その国の平均的な給与を得ていたでしょう。だから、家族も養える。(一度、その講師の方の自宅にお招きに預かったことがあります。)

しかし、講師の学歴は短大か大卒ぐらいだったでしょう。もちろん、日本語もできない。そのうえで1人で多くの生徒、その多くはアジア圏出身、に対応することになります。

それを思うと、会話の相手としては日本の大学に留学している、英語圏出身の留学生、彼らは修士以上の学位を持っており、日本語もできる、こうした人々と1対1で会話をしたほうがよほどコスパがいいはずです。

ここであらためて、英語で会話をすること、について。

従来、学校英語では、話す、ことを目的とはしていませんでした。少なくとも、私の世代では受験には「聞く」すらありませんでした。それが最近は、「聞く」ばかりでなく、「話す」を導入する動きがあります。

もともと、日本人一般に、英語が話せることに一種、憧憬(どうけい)の念を持たれることがあったでしょう。その背景には昭和の後期、洋画や洋楽といった、イギリス、アメリカ発祥の大衆文化の日本への浸透があったように思います。

1960年代から70年代にかけて、イギリス出身のロックバンド、ビートルズやクイーンが日本でも人気を博し、洋楽が聞かれるようになり、それがきっかけで英会話の勉強を始めた人も多かったでしょう。

最近、フランス研修で国民感情を逆なでた今井絵里子参議院議員。彼女はアイドル系ダンス、ボーカルグループ「SPEED」の元メンバーで、活動時期だった90年代、彼女が出演したテレビCMのひとつに大手子供向け英会話教室がありました。

そのCMでは子供のうちから、英語を流暢に話せることが、かっこいいこと、であるかのように訴求していたものです。しかし、そうした教室の講師は日本人。授業の内容も簡単な英会話に終始していたでしょう。

果たして、そこに通い続け、英語が流暢に話せるようになった子どもがどれだけいたか…。

私はあえて、いいたい。子供にとって、最高の勉強とは(日本語の)読書であると。それも小学生のうちは(日本語の)児童文学を読ませることです。

今年、公開されたアニメ映画「君たちはどう生きるか」。この作品は今年のカナダやスペインで行われた国際映画祭でもオープニング作品として、上映されています。

監督の宮崎駿氏は一貫して、日本国内で活動をしてきた方ですが、海外でその名を広く知られ、彼の作品は翻訳され、多くの観客から賞賛を受けてきました。その宮崎監督は子供のころ、多くの本に親しんできたでしょう。

タイトルの「君たちはどう生きるか」は宮崎氏が子供の頃、読んだ、同名の児童書から取ったものだそうです。(映画と児童書は内容は全く異なります。だから、映画の原作、脚本は宮崎駿となってます)また、映画のほうは他の様々な児童文学から影響を受けていると指摘されています。

宮崎アニメの創作の根源は日本語の読書です。豊かな世界観や想像力は充実した国語環境からもたらされたものであることを私は強調しておきます。

それでも、英語の勉強に時間を割くなら、やはり、「読む」ことから時間を割くべきです。それも日本語の「読む」ことを前提としながら、です。

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