見出し画像

伊那谷の有機給食実現し隊座談会@中川村

小さいようで広い伊那谷。
地域それぞれの実践や想いを知り、つながるための第一歩に。

 2023年9月3日、暮らすroom'sと「どんぶらこ伊那谷有機給食」が主催となり、「伊那谷の有機給食実現し隊座談会」を開催しました。

 イベントの名のとおり、伊那谷各地で暮らす有機給食に関心のあるみなさんや、すでに導入のために行動しているみなさんと集い、課題や展望を共有しあうことが、本会第一の目的。
 飯田市、松川町、中川村、豊丘村、飯島町、宮田村、伊那市、箕輪町、辰野町、さらに木曽町――と、広範囲にわたるエリアから計18名の参加者が集いました。

🔳プログラム1 中川村の実践視察―有機給食・食材提供生産者圃場見学

 朝10時に中川村のショッピングセンター「チャオ」に集合し、まずは開催地である中川村の圃場(ほじょう)見学から。簡単に自己紹介を終えたあと、まずは大島農園の圃場に向かいました。

 大島農園・大島歩さんにご案内いただき、農薬や化学肥料を使用せず栽培されている夏野菜の様子を見学。ちょうど端境期(はざかいき)ということでしたが、大きなズッキーニや愛らしいコリンキーなどが健やかに育っていました。
 すでに共同で有機野菜づくりに挑戦中の辰野町「ベジと明日」のみなさんが、野菜の仕立て方や太陽熱殺菌の方法についてなど、具体的な栽培方法について熱心に質問を投げかける姿が印象的でした。

 続いて向かったのは、同じく中川村の農家「はっぱ屋」の圃場。
 有機JAS認証(※注1)を取得し、葉物野菜に特化した栽培を行っている新規就農者です。
 2019年に大島農園から独立したばかりとは思えないほど大規模なハウスを使い、美しい葉野菜を育てているはっぱ屋さんでは、「おいしさ」「見た目」「鮮度」という3つのこだわりや、それを実現するための工夫についてお聞きしました。

 「給食へ出すことは利益というよりも、喜びの面が大きいです」
と話す若き園主・中村健志さんの言葉に、みなさん感激の表情を見せていました。

🔳プログラム2:事例・現状共有と座談会

 午後の部は「古民家 七代」へと会場を移し、テーブルをぐるりと囲んで情報共有の時間に。
 まずは、中川村にて「地産地消コーディネーター」として生産者と給食現場をつなぐ富永由三子さんから、中川村の実践を踏まえた話題提供をお願いしました。

1)価値観の多様性を認めながら、それぞれの地域に合った有機給食を届けたい:中川村地産地消コーディネーター・富永由三子さん

◎今がチャンス!日本の農業も給食も、「みどり政策」で大きな転換点に

 地元の短期大学を卒業後、保育士として児童福祉施設に勤務した経験をもつ富永さんは、結婚を機に中川村で暮らすようになり、1996年から給食調理員として勤務を開始。保育園給食を経て、学校給食センターも含めて20年以上、『安心・安全・おいしい給食』を合言葉に地産地消や郷土食のメニュー化などといった取り組みを行ってきた実践者です。

 フランスが発祥のオーガニック給食推進グループ「CPPオーガニック給食協議会(NPO法人こどもと農がつながる給食だんだん)」のオンライン勉強会講師としても登壇の経験をもつ富永さんは、給食調理員として15年の勤務の後、定年退職して現職「地産地消コーディネーター」に。
 「生産者と給食をつなぐ役割を担いながら、『安全の見える化』をめざしています」と話します。

中川村・地産地消コーディネーター富永由三子さん

 日本における有機給食の推進は、令和4年7月の「みどりの食料システム法(以下、みどり政策)」施行によって大きな転換点を迎えている、と富永さん。内容について、こう説明します。

 「環境と調和のとれた食料システム確立のために施行された「みどり政策」。この法律のなかでは、2050年までに耕地面積における有機農業の割合を25%、100万ヘクタールにまで拡大しようという目標が掲げられています。では現状はというと、たったの6%
 ではどうつくるか、そしてどう消費するかという課題のなかで、公共調達がボリュームを占める学校給食の有機化も、目標として各自治体でも掲げられるようになりました。

 また一方で、長野県の給食の方向性として、食育推進計画というものを県と各市町村が5年ごとに策定している流れがあります。
 これが今年、見直されて、県の第4次計画のなかでは重点的な取り組みの一つとして「給食における有機野菜をはじめ地場産物の活用促進」(食文化の継承・“地産地消”の推進のなかで)という項目が加えられています。
 つまり、いま、長野県で有機給食はとても進めやすい状況にあるということなんです」

◎では、現場ではどうしたら?富永さんが考える「3つの指針」

 有機給食を待ち望むメンバーに希望のもてる実情が共有されたところで、富永さんは生産・調理双方の現場を知る一人として「では、なにから始めるか」について、地産地消コーディネーターとしての3つの指針を伝えてくださいました。

「現状では、まだまだ慣行栽培が圧倒的多数という状況のなかで、まず第一に価値観の多様性を認めることからはじめていかなければと、いつも思っています。そもそも、『これですべし』という国の方針にのっとってきたからこそ、農薬や化学肥料を使うことが『慣行』と呼ばれています。私自身も、長く有機栽培という存在を『自分とは違うもの、意識の高い人が選ぶもの』という感覚がありました。

 いくら有機野菜をもっと給食に取り入れたい、と考えたとしても、あれはダメ、これがいい、という方法では軋轢が生まれ、行き詰まってしまいます。誰かを排除したり、傷つけるための有機給食ではないのですから。これからの選択肢として、常に『有機』というものを加えていきながら、作る人も、使う人も否定せず、いつでも選択できる道筋をつくっていくことが大切だと思います」

「二つ目は、『私たちは今、どういうところにいて、どういうことで悩んでいるかについて、足元の状況に立ち返る』ということです。
 ここには何がある?なにが生かせる?と、地域を知ることで、子どもたちに届けたい、この地域らしい有機給食の姿が見えてきます。
 足元を知るために大切なのが、こうして仲間とつながったり、思いを共有したりすること。自分一人で考えているだけではできないことが、仲間がいることで実現できることもあります。

 三つ目は、『そもそも有機給食ってなに?』と考え続けること。子どもたちに何を食べさせたいのか、ということです。たとえば、『有機野菜を使えば有機給食なの?』など。私も給食センター時代は『安全・安心・おいしい給食』と胸を張って言ってきたけれど、本当はどうだったかな?と振り返って思う部分もあります。何を使ったか、誰が作ったか、さまざまな側面から『安全の見える化』を、別の立場からはたらきかけていきたいです」

◎「食材を変える」だけではできないから。人材確保や地域理解も同時進行で

 有機給食のはじめかたについて「3つの指針」の共有の後は、実際の調理現場から見た有機食材と有機給食、地産地消へと話題は移行していきます。

 意外と見過ごされがちなこととして、有機給食を実現するためには、さまざまなメニューを“手づくり”することが欠かせない、という事実に触れる富永さん。加工品に頼らない給食づくりには当然、多くの調理員の「人の手」が必要ですが、現状はその逆。職員が非正規雇用となったり、民営化されたりなどといった流れの中、コスト削減が進んでいます。

「たとえばコロッケひとつでも、地元のものを使って、コストに見合う有機給食にしようと思えば、ジャガイモの皮を剥くところからはじめる必要があります。その発想を育むためには、子どもたちにも、調理の現場のなかでも『食育』が必要になります。余裕のないなかでは、どんなにおいしい食材、どんなに良い素材が身近にあっても“これを生かしてつくろう”という発想になりません。

 そして、皮をむく、という話でいえば、有機野菜と言えども給食調理には安全な提供のための厳しい衛生管理が必須となります。『野菜の皮は使わないんですか?』と聞かれることもありますが、かたちがいびつなにんじんや大根なら、皮を剥くだけでなくほじるようにして土を洗い流します。調理は時間との戦い、時間までに調理を終えて出さなければいけないなかで、有機野菜を使うことには苦労がともなうことも事実ですから、有機食材を仕入れられるようになるだけでは有機給食の実現はできないのです」

 なかなか目が向きにくい調理員の課題にまで話題がおよび、聞いていた参加者同士が「たしかに・・・」と目を合わせ頷きあう様子があちこちに。
 伊那谷地域では「宮田村が給食調理員の正規雇用を守っていて、実際給食内容も充実している」という事例も紹介され、改めて「食材だけでない有機給食の課題」について皆が考えさせられる時間となりました。

 最後に富永さんは、こう締めくくります。

「予算面の課題から、食材調達の課題、調理の課題まで、有機給食の実現のために乗り越えなければならない課題は多岐にわたります。だからこそ私たちはCPPのみなさんとも『覚悟をもって、図太い神経で有機給食の推進を進めていこう』と話しています。いくら国からの大方針があっても、行政や学校、教育委員会とそれぞれに伝えても、『うちの管轄じゃない』と言われてしまうこともあります。でも、それを鵜呑みにしたり、ただ待つだけでは、実現まで途方もない時間がかかってしまいます。大切なのは、関心のある保護者も、生産者も、地域みんなで取り組むということ。これだけ仲間つながっていればできることがたくさんあるはずだから、『どんぶらこ伊那谷有機給食』をみんなで集う場にできたらと思います」
 

2)参加者意見交換:それぞれの現状を共有し、「つながって動く」連携を約束

◎自己紹介
 最後は、自己紹介でそれぞれの活動を紹介し、深め合いました。ここでは、生産者さんのUさんのお話を紹介します。

Uさん(生産者)
 松川町で「松川町ゆうき給食とどけ隊」を4年前に発足し、副会長を務めています。
 遊休農地を解消し、学校給食にという考えから、松本市にある「自然農法国際研究開発センター」にお願いして4年目。行政で講演会や指導者の招聘などを積極的に行っていただけるので、私自身恵まれた条件で有機農業勉強できてきたと思っています。
 ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、長ネギ、米という主要5品目における有機農産物の2018年度の使用率を100として、その後の占有率を記録し続けていますが、9%→21%→28%と順調に伸び続けています。
 この取り組みを、国が省庁を超えて行っている「サステナアワード」に応募したところ、一昨年9位、昨年は消費者庁長官賞に選ばれ、日本に世界に発信されました。
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/sa2022.html

 有機給食の取り組みは、千葉県いすみ市が有名ですが、松川町も私たちなりにがんばっていますので、参考にしていただき、伊那谷のみなさんと一緒に有機給食を盛り上げていけたらと思います。
 毎月1回、指導の先生が来られて実践圃場の取り組みを行っています。だれでもウェルカム。他の市町村はだめということはありません。ぜひお気軽にお越しください。

まとめ

 富永さんのお話、そして自己紹介のなかでそれぞれの取り組みや経験、立場などが熱く紹介され、時間はあっという間にオーバー。それでも、

  • 「有機給食の実現」という想いを同じくする取り組みがいま、これほど近い地域で同時多発的に発生していること

  • 同じ想いをそれぞれの視点・発想で叶えようと奮闘する仲間がこんなにもいること

 参加者の誰もが手応えを感じていることがありありと感じられる時間になりました。
 
「今後はぜひ、みんなで進捗を共有して進めていきましょう」
「辰野の畑にも行きます!」
など、南信州(伊那谷・木曽谷)エリア全体で連携し、今後も継続して情報共有していこうと約束し、第一回目の集いのまとめとなりました。

ご参加くださった皆さん。ありがとうございました。

【番外編】ランチタイム
圃場見学と午後の意見交換の間に、昼食は中川村の「ピッツェリアクアットロ・モーリ」へ。イタリア・サルディーニャ島出身のシェフ、アレッシオ・サンナさんお手製のピザ窯で焼かれたピザにパスタ、大島農園の野菜をつかったサラダも並び、なごやかな交流の時間となりました。

※注1:有機JAS認証とは
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html(農林水産省HP)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?