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「秘密の部屋」その4

「ハッハッハ、その通り。」

その言葉に振り向くと、いつの間にか、あたしの後ろに、高野先生が立っていました。

「小山が見つけてくれたよ。あいつは親父の代からの奴隷でね。よく役に立ってくれるよ。」

「あ、あの、あたし....」

もうパニックです。他にもなんか言ったはずなんですが、何を言ったのか自分でも思い出せません。

「今日はね。君がかならずこの部屋に忍び込むだろうと思ってね。それで皆で示し合わせて留守にしたんだよ。そしたら、やっぱり。」

高野先生はそんなに怒っているようでもないみたいでした。それで、あたしもちょっと落ち着きました。でも、のぞきを現行犯で捕まったんですから、恥ずかしくて、恥ずかしくて。でも、恥ずかしがってる場合じゃなくて、ここはとりあえず謝るしかありません。

「ごめんなさい。あたし.... ホントに申し訳ありません。」

「いや、謝ってもらう必要はないよ。むしろこういう機会を待ってたぐらいなんだ。」

「???」

「君が初めてこの事務所に来た時から、私たちの夜の楽しみを手伝ってほしいと思って、チャンスをうかがってたんだよ。だけど、こういうことは、3時のお茶を飲みながら、世間話のように話題に載せられることじゃない。それは君もわかるだろう。」

あたしは、うつむいていた顔を上げ、高野先生の顔に見入りました。

「私は、君にも“素質”があると思うんだ。いや、君に限らず、誰にだって潜在的にはあるはずなんだ。ただ、たいていは完全に抑圧されてしまっていて、自分自身ではなかなか気がつかないんだね。現に、牧村君だって、僕に出会うまでは、性的には特殊な趣味を持たない、ごく普通の女性だったんだよ。それが今じゃあ、君が録画で見た通りさ。」

あたしは何か言わなくちゃとあせりましたが、何と言って良いかわかりません。高野先生はそんなわたしを無視して続けました。

「ここで見聞きしたことを誰かに話そうなんて思わない方がいいね。君のためにはならないよ。こんなことは、まあ、自分で言うのもなんだが、ひきょうなことになるのでね、あまり口にしたくないんだが....君のお父さんはN市の出身だったね。それでN市に支社を置いてる。そこでの話なんだけどね。お父さんは、先の総選挙で民政党の候補にかなり肩入れをしていたんだ。君は薄々気付いてるだろう。まあ、法律の許す範囲なら問題は無いんだけどね。私が知っているところでは、もし露見すれば、お父さんは残念ながら、今の地位を失うことになるだろう。私だって、君を雇っている理由が無くなるわけだから、君も今の生活を失うことになる。そうすれば辛いだろう。」

「‥‥‥」

「そんなに深刻な顔をしなくていいさ。これは楽しいことなんだ。」

そう言うと、高野先生は、後ろを振り向いて、入り口に向かって呼びかけました。

「牧村君!」

冴子先生が部屋に入ってきました。何とその手には鎖でできたリードが握られています。そしてリードの先には四つん這いの小山さんが繋がれているではありませんか。

「さあ、小山。智香子さんの靴をお前の舌で清めてあげなさい!」

冴子先生が有無を言わさぬ口調で命じます。小山さんは、なんのためらいも見せずに、あたしの足下に這い寄ると、うずくまって靴を舐めようとしました。

 小山さんが、舌を伸ばして、まさにパンプスのつま先に触れようとした時、あたしは困ったことになったと思ったけど、身体がこわばって動けませんでした。その日、あたしは、Body Dressingの白いスリングバックを履いていました。バックベルトだから、踵がオープンで、生足が露出してるんです。小山さんの舌が、つま先からサイドを経て、さらに後ろに進もうとして、素足の部分に触れた瞬間、あたしの身体の中で、自分でも信じられないような反応が起きました。

「何するのよ、汚いっ!」

あたしは、思わず、小山さんの顔を下から蹴り上げるようにして、押しやっていました。その反動で、小山さん(いえっ、ここからは、小山さんではなく、“小山”にします)、小山は仰向けにひっくり返ってしまいました。私は、それを追うようにして、仰向けに倒れた顔の横に立つと、右足を上げて、パンプスの靴底を口の上に踏み降ろしました。

「そんなに舐めたければ、靴の裏を舐めなさいよ!」

どうして、そんな言葉を口にしてしまったのか、自分でも不思議でした。まるで、あたしの中に別のあたしがいて、そっちのあたしがしゃべってるような感じ、と言ったらわかってもらえるでしょうか?

 小山はいやがるように顔をそむけました。それは、今思えば、あたしの中の嗜虐性を引き出すための演技だったみたいです。高野先生も言ってましたけど、そういう点では、その場その場で自分のやるべきことをよくわきまえた「役に立ってくれる」奴隷と言えるかもしれません。でも、その時のあたしはそんなこととは知らずに、小山の思うつぼにはまってしまいました。

「あたしの言うことじゃ聞けないの? バカにしてるんでしょ、あたしのこと。」

あたしは、日頃の小山の指導をありがたいと思う反面、あまりに細かいことまで指示をしてくるし、高野先生が大目に見てくれるミスについても、いちいち小言を言ったりするので、内心、かなり頭に来てるところもありました。そういう積もり積もった反感が爆発したらどうなるか、ご想像がつくでしょう。

「許せない!」

あたしは小山の口元を押さえつけているつま先に力をこめて、こねるようにして踏みにじりました。すぐに血がにじむのが見えました。それでもあたしは気が済みません。小山の顔の上にのしかかるようにして全体重をかけ、これでもかというぐらい踏みつけてやりました。経験の無い人にはわかりにくいかもしれませんが、人の顔って、上向きの状態だとかなり不安定なんですよね。それで、足が前にすべって、つま先がずり落ちてしまい、ちょうどパンプスの土踏まずの部分で顔を挟み込むような感じになってしまいました。ヒールのするどいエッジが小山の頬に痛々しいミミズ腫れを刻みつけました。その傷はもう一生消えないかもしれません。

「もういいだろう、そんなところで。」

高野先生の声で、我に返りました。

「私の見込んだ通りだ。十分に素質があるよ、君は。」

先生は満足そうに微笑んでいます。

「わたくし以上ね。わたくしだって、初体験の時には、そこまで大胆にはなれなかったもの。」

冴子先生も尻馬に乗って冷やかします。あたしはなんだか急にまた恥ずかしさがこみ上げてきて、視線を床に落としました。そこには、本当にダメージが大きかったのか、目を閉じたまま、息を荒くしている小山の顔が横たわっていました。

 次の日の朝、あたしはどんな顔をして事務所に出れば良いのやら、前夜のことを思い出すと困ってしまいました。でも、気にしていたのはあたしだけみたいで、あたしが、ぎごちない笑みを浮かべながら入り口のドアを開けて入っていくと、冴子先生も小山も何事も無かったかのように、朗らかに挨拶の言葉をかけてくれました。前日の朝と違うのは、小山の頬のバンドエイドだけ。後から出勤した高野先生も同じです。夜と昼とのこのギャップ! それが大人というものなんでしょうね、きっと。


コーカサス

 そうそう、あの夜のことですけど、あの後、冴子先生、豪快なカブト虫クラッシュを披露してくれたんですよ。最近は、熱帯産の大きなカブト虫を輸入してるんだそうで、高野先生、1匹何千円とか高いのは1万円以上もするような高価なカブト虫を10匹も買ってきて、それを使ったんです。生贄が大きかったせいもあって、あたしはナマで見るクラッシュの迫力にすっかり圧倒されてしまいました。えっ? お前はやらなかったのかって? それはご想像におまかせします。

 実は、今夜、あの秘密の部屋で先日の夜の続きをやることになってるんですよ。高野先生、あたしにブーツを持ってきてくれって、おねだりするんです。先生、あたしが春先にロング・ブーツを履いてたのを憶えてて、それを持ってきてくれって言って。ガラスのテーブルを処刑台にして、あたしがブーツのヒールでザリガニやカブトムシ虫を処刑するところを撮りたいんだそうです。面白そうでしょ。あたしも今から楽しみです。

 じゃあ、皆さん。そのプレーのご報告はいずれまた。


Bye for now!


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