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ひっつきむし

こんにちは。身近な自然観察アドバイザーのmimosaです。

秋晴れのある日、いつもの里山保全活動の集合場所へやって来たボランティアさんのズボンに、大量のタネが付いていました。いわゆる「ひっつきむし」です。本人は全く気付いていなくて、「たくさんタネがついていますよ。」と言うと、「自転車を停めたところの草むらでくっついたのかな。こりゃひどい。」と、タネをつまんで剥がし始めました。あとからやって来た大学生のデニムのズボンやスニーカーにも、同じタネが付いていて、「活動地に持ち込んで、はびこると厄介なのでここで取って行ってくださいね。」と声掛けしました。

このタネは、アレチヌスビトハギという、北アメリカ原産の植物です。マメ科の植物なので、果実は平たく3~6個のくびれがあり、その一つずつにタネが入っています。表面にはかぎ爪を持った細かい毛が生えていて、それが衣服などにひっつきます。名前通りに荒れ地に生えていることが多く、道ばたや空き地の草むらを通って、気付いたら衣服に付いていた経験のある人も多いのではないでしょうか。

ほかによく知られている「ひっつきむし」に、キク科で同じく北アメリカ原産のオオオナモミがあります。楕円形の果実で、かぎ爪が密に生えています。子供の頃、実がひっつくのが面白くて、友だちと投げ合って遊んだ思い出があるかもしれません。このかぎ爪の形状がマジックテープ発明のヒントになった話も有名です。かぎ爪タイプ以外では、トゲタイプの植物もあります。アメリカセンダングサは、扁平のタネの先に2本の角のようなトゲがあり、衣服などに突き刺さります。

植物は自分の足で移動することができないので、タネを散布するためのさまざまな戦略を持っています。綿毛を持ち、風に乗ってタネを広げるものもいれば、鮮やかな色の実は、鳥たちが食べて、飛んで行った先でフンをすると、消化されないタネが散布されることになります。「ひっつきむし」は、大量のタネを実らせて、人や犬、野山に生息する動物にひっついて分布を広げます。

アレチヌスビトハギ、オオオナモミ、アメリカセンダングサは、3種とも環境省と農林水産省が公表している「生態系被害防止外来種リスト(我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト)」に「総合的に対策が必要な外来種」として挙げられています。また、このリストに掲載されている植物のうち、とくに人の健康や農林水産物への被害の大きいもの、在来の生態系に害を及ぼす、またはその可能性の高いものについては「特定外来生物」に指定されています。繁殖力の強さから早急に対策が必要とされるもので、自治体などが拡散防止や駆除の協力を呼びかけています。しかし、3種の「ひっつきむし」は、「特定外来生物」のような厳しい防除の対象になることは少なく、空き地や河川敷などに、同リストに載っているセイタカアワダチソウなどと一緒に広範囲に生えて、ありふれた風景を形成しています。

郊外へ出かけても、河原でも、田んぼの畦でも、どこへ行っても同じような顔ぶれの植物ばかりで、つまらなく感じることがあります。本来はその地域や環境に特有の植物が自生している場所に、繁殖力の強い外来の植物などが侵入してしまうと、為す術のない在来の植物はたちまち衰退してしまいます。在来種であるヌスビトハギはめったに見られなくなり、在来種のオナモミは、兵庫県などでは現存が確認できない絶滅種、環境省のレッドリストでも絶滅危惧種となっています。在来の植物が生育する懐かしい里山の風景が、いつのまにか消えているとしたら、とても寂しいことです。

先日、山あいの、整備工事で舗装されたばかりの道を、見慣れた植物を眺めなら歩いていました。同行者が、「あれ?」と声をあげたので、目の前の崖を見上げると、図鑑で見たことのある植物が生えているではありませんか。大型のアザミによく似た花が頭を垂れるように咲いて、群落をつくっています。特徴的なこの花は、キクバヤマボクチのようです。西日本の日当たりのよい山地に見られる多年草で、ここでは、さりげなくたくさん咲いていますが、愛媛県や大分県のレッドリストでは絶滅危惧種です。この場所で、周囲の土地の改変にも負けず、元気に生育していたのですね。周辺のハイキング道が、植物好きに多様な草花に出会える穴場として知られているのも頷けました。

秋から冬にかけては、タネを実らせる植物の観察に最適の季節です。散歩やハイキングで出かけた先で、植物たちがどんなタネをつけて、広げる作戦は何かな、と意識して観てみるのも面白いかもしれません。

【参考】生態系被害防止外来種リスト
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/gairai_panf_a4.pdf

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