里山のため池

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                    2020/03/06 第560号
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【里山のため池】

こんにちは、身近な自然観察アドバイザーのmimosaです。

ここ数年ずっと関わっている、市民ボランティアさんたちが活躍する里山には、たくさんのため池があります。集落の人たちによるため池管理の一環で、昨年、最も大きなため池の水抜きが行われました。数年に一度水を抜き、池の底を空気にさらし、水を入れ替えることによって、水質の改善効果などが期待できるからです。

ため池は、ご存じのとおり、農業用水を確保するために人工的に造られた池です。降水量が少なく、大きな河川にも恵まれない地域、とくに西日本を中心として、全国に約17万か所も存在し、その歴史は古く、江戸時代以前のものが7割も占めているそうです。

ため池には、山間部に多く見られる谷をせきとめてつくった谷池と、平野部の窪地や湿地の周囲に堤防を築いてつくった皿池があります。今回のため池は皿池で、取水口のある一面のみコンクリート張りですが、ほかは土のままで、雑木林や湿地が水辺まで迫っています。人工の池でありながら、里山環境の一つの要素として存在し、周囲には希少な植物も多く生育する、生物多様性に富んだ環境です。

ため池を含む一帯は、市民ボランティアさんたちが、楽しみながら里山の管理を続けることで、美しい景観や動植物が保全されています。また、集落の人たちが、ため池の堰堤周辺の除草を定期的に実施しているので、春のワラビをはじめ、いろいろな草花が見られます。

ため池の水が抜かれると、池底にいくつか直径80~100cmのすり鉢状の円が描かれていることに気付きました。これはオオクチバス(ブラックバス)のオスがつくった産卵床で、掃除された円の中にメスがやってきて産卵すると、オスが卵を守り、孵化する数は2000~5000だそうです。オオクチバスは北米原産の肉食性淡水魚で体長が30~50cm、ほかの魚や甲殻類、水生生物を旺盛に捕食します。繁殖力の高さ、天敵がいないなどにより、地域の淡水生態系を脅かすことから、特定外来生物(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)に指定されています。在来魚にもナマズなど肉食性淡水魚はいますが、生態系が守られているのは、長い年月をかけてほかの在来種とのいいバランスを築いてきたからです。

ため池のある場所は、集落の人たちと市民ボランティアのメンバー以外は立ち入り禁止です。フェンスが張り巡らされていて、「立入禁止」と「釣り禁止」の看板が複数設置されています。しかし、人けのない恰好の池だと気付いた誰かが、オオクチバスを放流したようです。現に、私たちがやって来たのに気付いて、釣竿を手にした若者が立ち去るのに何度か遭遇しました。土地を管理する市の職員がその度に注意しましたが、その後も野生動物調査用のトレイルカメラ(自動撮影カメラ)に釣り人の姿が写っていました。

特定外来生物は、飼育、生きたまま運ぶこと、ほかの場所に放すことは禁止されています。全ての水が抜かれて、オオクチバスもいなくなったのが確認されたので、再び水がはられても、復活することはないはずです。また、市民ボランティア活動や、優れた景観、環境の視察に訪れる人など、人の眼も格段に増えたので、無断で立ち入りしにくい場所になったことは、前回の水抜き時と異なるところです。なにより、人為的に放流されて、結果的に駆除されては、悪いことをしているわけでもないオオクチバスにも気の毒です。
ルールが守られれば、これまで池に産卵していたトンボたちのヤゴも食べられることはなくなり、周辺地域のため池に昔から生息する在来の水生生物がやってきて棲みはじめるかもしれません。

ところで、広いため池の底を歩くことなど、めったにない機会です。市民ボランティアさんたちの間で、池底散策がちょっとしたブームになりました。
歴史あるため池の底には、その地層を物語るさまざまな種類の石があり、何事にも好奇心の高い人たちの興味は尽きません。石を手にとって色や形を眺めるだけでも楽しいですが、そこにオレンジ色のつやのある石(瑪瑙(めのう)か琥珀らしきもの)が混じっていることがわかり、さらには、須恵器(古墳時代から奈良時代に日本でつくられた硬い土器)のカケラも発見され、宝探しさながらに、何か見つけて見せ合っては、大いに盛りあがりました。

ため池のある場所の周辺には、旧石器時代から人々が暮らしていた痕跡があり、古墳時代の遺跡あとから須恵器がたくさん見つかっているそうです。池の水を抜いたことで、集落の人々が大切に管理してきたため池が、歴史的にも地質学的にも興味深い場所であることがあらためてわかりました。今後も、ときには、いにしえの人たちの暮らしに想いを馳せながら、この美しい里山環境を次の世代に繋げていきたいものです。
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