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雨宿り

幼い頃、近所に駄菓子屋さんがありました。

日本家屋の土間に駄菓子が並べられていて、その家で暮らすおばちゃんが営んでいました。
土間に面した部屋の引戸はいつも開いていて、六畳ほどの部屋には冬はこたつ、夏はちゃぶ台が真ん中にあり、柱には振り子の掛け時計が見えていたのを覚えています。
家の電話が鳴れば、おばちゃんはヒョイと上がって受話器を取っていたし、子ども達が電話を貸してもらうなんてことも。
暮らしと商売が溶け合っていて、人(客)との距離も同様に溶け合っていた気がします。

駄菓子屋さんだけでなく、食料品や雑貨を扱うお店も、そんな小さくて気負いないところばかりでした。

あれから約30年。昨年訪れた故郷では、駄菓子屋さんは閉じてられており(お宅はそのまま)、ある商店はコンビニに変わっていました。綺麗に建て替えられた団地の側では、今でも営まれ続けている一軒の商店を見ることができましたが、小さな商店が並んだ通りは道路の拡張で跡形もなく消えていました。

私も以前は大きなショッピングモールに目を見張り、新しい商業施設が出来れば足繁く通っていました。接待で連れて行ってもらったフォーマルな場所や接客もそれはそれは素敵だったけれど、最近そんな場所には興味が無くなってしまいました。心が動かなくなったのです。

小さくて、人間味があって、暮らすように自然に営まれている。そんなお店が好きです。


最近、近所でそんなお店を見つけました。

それは服の修理のお店。
"かけつぎ・かけはぎ" と書かれた小さな看板が控えめに立っています。自宅(日本家屋)の隅の掃き出し窓が入り口になっていて、お客さんが立てるスペースは二人でいっぱいになる様な小さなお店。中は色とりどりの糸がずらりと並んでいて、すっきりと整理された空間に、人柄を表すような美しい文字のお知らせが貼られています。
初めて入った瞬間に、素敵な場所だと感じました。

今日は先日お願いしていた服を取りに伺ったのですが、お喋りが弾んでいる間に雨が激しく降り始めました。
「洗濯物心配やね~!」と私の心配をしてくれながら天気予報を調べ、

「雨が止むまでここ居てくれたらいいよ~!」とエアコンを調整してくれて。

まだ初対面同然の私に、当たり前のように心を配ってもらえたことに感動しました。

ほどよい距離感と間のお喋りをゆるゆると楽しんでいるうちに小雨になり、お客さんが見えたのでお店を後にすることに。

傘立てに差していた私の傘には、笑ってしまうほど雨水が溜まっていて、
それを「こりゃいかん。ごめんね~!」と水をはらってくれる姿。
最後まで有難い時間を過ごしました。

そうして小雨の中を一人帰りながら、静かに感動している自分に気付きました。

人との間に壁を作るでもなく、
手を差し出してくれるけれど踏み込まれ過ぎず、
その塩梅が私にはとても心地よく感じたのです。

このお店がこれからも長く続くように私も大事にしたいし、こんなお店がまた愛される(増える)世界になるといいなぁと感じています。


仕上がりもとても良かったので、夫のスーツの気になっていた部分を全てお願いすることにしました。技術的なことを説明してもらいながら、一つ一つどう仕上げていくかを決める過程も楽しかったです。

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