倉沢の短編シリーズ「よりぬき倉沢トモエ」⑲「びっくりした甥っ子氏。」
びっくりした甥っ子氏。
大学一年の夏休み。相変わらず山と田んぼしかない村にある実家に帰省した。
「1! 2! 3! 4! 5! 6! 7! 8! 9! 10!」
庭でアリを数えている甥のタイキくん三歳、10まで完璧だ! 天才か!
「11! 12!」
おっ?
「15! 13! 14! 20!」
文字列ヤバくなってきた!
「100! 111! 1000!」
どれだけアリがいるんだよ、うちの庭!
「ああやって生き物みてるからすぐ泥んこになるんだけどね」
姉がカルピス持ってきた。
「この頃、汚すとすぐに『◯◯見て、びっくりしちゃった!』って言い訳するようになったの。こないだは『バッタ見つけて、びっくりしちゃった!』」
この田舎で生き物を嫌わず、接しているとは頼もしい。
「『カタツムリ見つけてびっくりした! 3メートル!』」
「3メートル」
「お母さん! 見て!! って言うから行ってみたら、」
3センチほどだったという。
「単位というものがあると、そこは理解しているんだ」
天才か。
俺が感動していると、タイキ氏は呼びにきた友だちの家に遊びに行ってしまった。
* *
ところでタイキ氏が遊びに行ったあと、両親が妙な話をしていた。
「村のあちこちで池の掃除をしようとするとね、」
掃除を。
「苔がなんでかきれいになってるの」
苔を食う生き物って、魚? エビ? そいつらが大発生したとか?
「いや、一晩できれいになるのおかしいでしょ。小学校とかお寺とか、日時決めて池掃除に集まると、あれだけあった苔がないのよ」
有志の善意の人のしわざとも思われない。
「たいへん!」
そこにタイキ氏、友だちといっしょに走ってきた。泥だらけだ。
「コウちゃんのお家の池に、大きいカエルいて、びっくりしちゃった!」
「池のコケ食べてた!」
カエルは、コケ食べるのか?
「あははは、どのくらい大きいの?」
「5メートル!」
俺を含む大人たちは、そのほほえましさに笑いがこぼれたが、ん? 池? コケ? 5メートル?
まさかな。
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