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久保田寛子さんのシンプルな静物画に積層されていた150年の歴史

久保田寛子さんは、山口県在住で、国内外において多くの賞を受賞した有力・イラストレーターです。

画像は、久保田さんによる油彩の静物画です。

久保田寛子・作 油彩画 2018年 筆者・蔵

乳製品のガラス瓶に生けられた、紫色のトルコキキョウの花が描かれています。
筆者は、薄い花びらにたっぷりと水分を含んだ、生気がある、やさしく美しい花の姿に既視感を覚えました。

それは、19世紀のパリで活躍した近代絵画の創始者、エドゥアール・マネ(1832~1883)が描いた「ガラス花瓶の中のカーネーションとクレマティス」です。

エドゥアール・マネ・作 ガラス花瓶の中のカーネーションとクレマティス 1) 
1882年 オルセー美術館・蔵

その花々の瑞々しさは、マネと同時代の有力画家、ジャック=エミール・ブラッシュ(1861~1942)にして「彼のパレットから生まれた花はしおれることがない」と言わしめました 1)。

マネが描いたシンプルかつ重厚なガラスの花瓶は、マネが生きた19世紀に絶頂を迎えたパリ市民の自信を表しているかのようです。

久保田さんの作品では、花は、花瓶ではなくて、今では見かけなくなった乳製品の厚みがあるガラス瓶に生けられています。当時は瓶の蓋が紙製で、早朝に「牛乳屋さん」によって新鮮な牛乳やヨーグルトを詰められて、各家庭に配達されていたのを思い出します。乳製品の瓶は、日本がまだ十分に豊かではなかったけれども希望があった、20世紀後半の昭和な気分を掻き立てます。

マネの静物画の構図は、対象と同じ目の高さから見た古典的で正統なもので、安定感があります。

一方、久保田さんの作品では、こびとがドローンを使って、上空から空撮したかのような浮遊感があります。21世紀の今だからこそ発見された新しい構図ではないでしょうか。

久保田さんの静物画には、19世紀から21世紀にかけての150年の歴史が積み重なっていたのでした。


引用画像・文献
1)高橋明也・著:もっと知りたい マネ 作品と生涯. 東京美術, 2019, P72-73



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