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フェルメールの風景画「デルフトの眺望」の再現〜石原路子さんのテディベアと海野千尋さんの創作人形による〜

フェルメール作「デルフト眺望」は、世界で最も有名な風景画の一つです。オランダの商業都市デルフトを、市街南端のスヒー川から眺めた構図になっています。市街の景観には、旧教会、市庁舎、時計台、新教会、ロッテルダム門といった、多くの尖塔がそびえているのが見えます。

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フィルメール・作「デルフト眺望」1660-61年 マウリッツハイス美術館1)

手前の川岸には、複数の人物が描かれています。すなわち、右側には二人の女性が向き合って佇んでおり、左端には、船に乗ろうとする夫婦と、それを見送りに来た夫婦が描かれています。見送る側の婦人は、幼子を抱いています。

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川岸の拡大図

再現にあたって、手前の川岸は、食卓用の木のお膳を、自宅マンションのベランダにある物干し竿の上に、二つ並べて設置して、表現しました。

川岸の登場人物には、楽屋のテディベア5体全員に出演してもらいました。それに加えて、幼子を抱えた婦人を、海野千尋さんによる、ほんのり桃色のお嬢さん、に演じてもらいました。抱かれている幼子は、これも海野千尋さんによるミノムシをモチーフにした創作人形です。

スヒー川は、江戸時代の藍染めの古布を、ベランダの欄干に被せて表現しました。デルフト市街は、ベランダからみた倉敷市街の景観を借景しました。ちなみに、画面奥に見えるレンガ色の塔は、倉敷市役所の建物です。

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この空気感は、いかがでしょうか? 

我が家の俳優総出演による演出を、楽しんでもらえたら嬉しいです。

追記

美術家・森村泰昌の畏友(いゆう)渡辺一夫は、「デルフトの眺望」のなかに次のような鎮魂の物語を見出しています2)。

手前の浜辺は、赤みを帯びたあたたかみのある場所で、生きた人びとの姿があります。それに比べて運河の向こう岸のデルフトの市街には、ひとの気配が感じられず、静寂につつまれています。運河に隔てられた、こちらの岸辺は此岸(この世)、むこうの岸辺は彼岸(あの世)に相当します。

手前にある浜辺の左端では、一組の男女が船に乗ろうとしています。それを見送りに来ている紳士と子どもを抱く女性がいます。旅立とうとしているのは、絵が描かれる6年前にデルフトで起きた大災害で犠牲になった画家・ファブリティウス、と妻であり、見送りに来ているのはフェルメールではないか。

それは現実の旅行ではなく、死出の旅です。こちらの浜辺と向こうの街並みを隔てる運河は、渡ってしまえば二度と帰ってくることがない三途の川であり、向こう岸に見えるのは大災害前の幻影としてのデルフトの街なのです。子どもを抱く女性の姿は、聖母子ではないか、とする読みをしています。

引用文献

1)栗原紀行・他編:「静謐と光の画家フェルメール」サンエイムック 時空旅人別冊. 三栄書房, 2018年10月7日発行. P62-65

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2)森村泰昌・著:自画像のゆくえ. 光文社新書1028, 2019, P241-315

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