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フェルメール展に行ってきました

フェルメールは、日本で人気のある画家ですが、現存する作品数は少なく、全作品は確実なもので35作品と言われています。私が最初にフェルメールの絵画に出会ったのは、1998年に国際義肢装具学会でオランダのアムステルダムを訪れたときのことです。アムステルダム国立美術館で「牛乳を注ぐ女」を観たのを覚えています。「手紙を読む青衣の女」と「恋文」も所蔵されていたはずですが、観たという記憶が定かではありません。その時は、レンブラントの大作「夜警」に圧倒されて、フェルメール作品の印象は、薄いものでした。オランダ人は、レンブラントを誇りに思うのか、学会のセレモニーで上演されたのは、「夜警」をモチーフにした演劇でした。

それから長い月日が過ぎました。2012年1月29日のことでした。日曜日の昼下がりに大阪堂島のジュンク堂書店・大阪本店で過ごしていたところ、生物学者の福岡伸一先生の講演と著書のサイン会があると、店内アナウンスがありました。会場は、まだ席があるとのことで、急遽参加しました。福岡先生の話は、「光学顕微鏡の先駆者で、水中微生物や血球、精子の発見者とされるレーウェンフックとフェルメールは、同時代に同じデルフトの街に住んでいて、交流していた可能性がある。レーウェンフックの観察画は、その描写力から熟練の画家が描いたと考えられ、それがフェルメールではないかと推理した。原画が保存されているロンドン王立協会の書庫を訪れて、閲覧を許され、吸い込まれるようにその絵を見つめた」、という内容だったと覚えています。

講演後、福岡先生の著書「フェルメール光の王国」を購入し、列に並んでサインをしていただいた。

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福岡伸一・著:フェルメール光の王国. 木楽社, 2011

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福岡先生の直筆サイン

それから私のフェルメール行脚がはじまった。その時期、東京渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「フェルメールからのラブレター展」が開催中で、3作品が来日していることを知りました。大阪から日帰りで東京へ向かい、「手紙を読む青衣の女」「手紙を書く女」「手紙を書く女と召使い」の3作品に出会うことができました。

2013年1月には、神戸市立博物館で「マオリッツハイツ美術館展」が開催されており、そこで2作品、「ディアナとニンフたち」と「真珠の首飾りの少女」に出会いました。

2015年6月には京都市立美術館で「ルーブル美術館展」が開催され、「天文学者」に出会いました。続けて、2015年10月には、同じく京都市立美術館の特別展「フェルメールとレンブラント」で、「窓辺で水差しを持つ女」に出会うことができました。

2018年10月には、東京上野の森美術館で、9作品が一堂に会する日本美術展史上最大のフェルメール展が開催されました。しかし、新たな出会いは、かないませんでした。倉敷から東京を目指して、上野の森美術館の入り口まで行ってみたのですが、入場には、日時指定のチケットが必要で、しかも、入場待ちの列が上野公園内を延々と2キロも続いていたので、断念しました。今回はそのリベンジで、大阪市立美術館のフェルメール展を訪れたのです。

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大阪市立美術館(大阪市天王寺区)

東京での経験から覚悟はしていたのですが、当日(2019年3月16日)は土曜日であったにもかかわらず、並ばずに入場でき、会場内も比較的空いていました。そして、回遊しながら、6作品を何度も間近で眺めることができました。すなわち、「マルタとマリアの家のキリスト」「取り持ち女」「手紙を書く婦人と召使い」「リュートを調弦する女」「手紙を書く女」「恋文」の6作品です。「手紙を書く女」と「手紙を書く女と召使い」は、7年ぶりの再会でした。東京会場で展示されていた「ワイングラス」「赤い帽子の娘」「真珠の首飾りの女」は観ることができなくて残念でした。本物と出会う行脚は、この先まだまだ続きます。

現在は、デジタル技術の進歩で高精度のコピーが可能となり、本物とコピーとの落差が揺らいでいます。肉眼で見て違いが判らなければ、本物との出会いにこだわる必要があるのか、人によって価値観が分かれるところでしょう。しかし、あの日「2012年1月29日」は、検索ではなくて、体を移動していて、偶然の出会いがあったのです。そこからから始まった行脚を通じて、自分の体を移動して、本物に出会う喜びを知りました。本物には、体に染み込む何かがある、と思えるのです。

(2019年3月20日)

追伸:デジタル音源やデジタル画像のように、元がデジタル・データなら、それをコピーしたものとは何なのでしょうか。原理的には、オリジナルと同一・不変です。

不思議なことですが、私の経験では、データは同じでも、ハード・ディスクやSSDといった記録素子によって音質や画質が変化します。なぜだか私には判らないのですが、音質や画質がよくなる記憶素子が存在します。その素子にコピーすると、もとの素子よりも音質や画質はよくなるのは、経験的事実です。存在物の神秘です。


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