見出し画像

夏の最後の薔薇~山中康裕・著「少年期の心」に寄せて~

精神科医で臨床心理学の 山中康裕 先生は、著書のなかで、神経難病の多発性硬化症のために10代で早世した少女のことを紹介していました。亡くなる前2、3年は身辺処理は何もできなくなり、寝たきりの状態だったとのことです。そんな少女に対するお母さんの献身的な介護は、筆舌に尽くしがたいもので、本当に頭が下がる思いがしたとのことです。少女はまだ元気だった十四、五歳の頃、病院の黒板に次のような詩を書きました。

 私の母

母はこわい

母はやさしい

その両面があってこそ親なのね、

でもあんまり

おこらないでね

母さん

(山中康裕著: 少年期の心 精神療法を通してみた影.中公新書515,1999. pp107-114)

山中先生は,「死者達への鎮魂歌」の章をこの詩で終わり、解釈は個々の読者に委ねています。わたしは、少女は母にありのままで受け止めてもらい、十分甘えられたんだろうな、と想像します。初版が1978年の本ですので、半世紀近く前の出来事だったのでしょう。

少女に「夏の最後の薔薇」を手向けたいと思います。初夏に咲き始めた薔薇は、夏には衰えますが、それでも少し小振りになった花を咲かせます。この薔薇は、花びらがわずかに染まりきらなかったのですが、それでも精一杯、咲いていました。

ソーメン

夏の最後の薔薇

(2019年8月4日)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?