3人の造形作家、山岡緑さん、石原路子さん、海野千尋さんの作品による、斎藤真一の絵画世界の再現
斎藤真一(1922-1994)は、岡山県倉敷市出身の画家です。東京美術学校に進学し、学徒出陣から帰還後に復学・卒業し、教員の傍ら画業を始めます。40歳頃より盲目の女性旅芸人、瞽女(ごぜ)に惹かれ、描きはじめました。
倉敷市立美術館では、ちょうど東郷青児・斎藤真一 展(2022.10.22-12.18)が開催されており、斎藤真一のまとまった作品が観られる稀少な機会なので訪れました。
展示会場の解説文によれば、女性で盲目という社会的弱者である瞽女(ごぜ)の人生は、辛く哀しいものという先入観を持たれるが、たくましく生きてきた存在であることが述べられていました。
瞽女は江戸時代より強固な組織で結ばれ、徒弟制度により、三味線と唄を習い、閉ざされた山国の山村に娯楽を持ち込みました。各地の巡業先で定宿の農家に泊まって歓待され、顧客に支持された、社会的・経済的に自立した存在であったことが記載されています。
斎藤真一は、最後の瞽女といわれた杉本キクのもとを訪れ、10年間に渡って越後に通い取材をし、作品を描き続けました。1)
今回は、そのような斎藤の思いが詰まった作品を、現在の3人の造形作家(表題画像、左から、山岡緑さん、石原路子さん、海野千尋さん)の作品で再現してみました。
まずは、越後瞽女日記「二本木の雪」です。
日が落ちたばかりの雪原を、3人の瞽女が一列に並んで進んでいます。空には一番星が出ています。
再現にあたって、雪原を進む3人の瞽女は、山岡緑さんによる造形作品「ブサネコ」を選択しました。
この3体は山岡さんの「ブサネコ」作品の中でも、何も道具を持たずに屹立する、自立的な存在が表現されています。
一番星は、アンティークの小瓶の蓋で表現しました。岡山禁酒会館3階のフランス雑貨店で購入したもので、店主の長女がパリの蚤の市で仕入れたもの、とのことでした。
この、厳粛な空気感はいかがでしょうか。
続いては、「妙音講」です。
瞽女の集団が、妙音天*を祭ったお堂の前で車座になって、三味線の演奏と唄を奉納しています。
(*弁才天の別称。美しい音楽を奏でるところからいう。弁才天は、七福神のひとつで、その像は、美しい女神で表され琵琶をひいている。弁天。)
再現にあたっては、石原路子さんによるテディベアと、海野千尋さんによる陶布人形に参加してもらいました。
寒冷な冬の外気の中に宿った、この温もりのある空気感はいかがでしょうか。
今回演じてくれた人形達は、自分で動くことも話すこともできず、ただ待っているだけしかできない弱い(フラジャイルな)存在ですが、それ故に、かつて生きた者と今を生きる者との媒介者となることができます。
能役者が源義経を演じることで、義経の霊を慰めるように、我が家の俳優達の演芸表現が、故・斎藤真一と瞽女達への鎮魂となることを願います。
1)斎藤真一:越後瞽女日記 作品集. ギャラリー朱雀院.
(2022.12.17. 倉敷市立美術館で購入)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?