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川月清志さんの木製テープカッター

マスキングテープは、塗装するときに使われる工業用テープでしたが、倉敷の会社・カモ井加工紙が2008年に絵柄をつけて発売したところ、人気を博し、全国に広まりました。倉敷美観地区界隈には専門店があり、今では倉敷観光の定番の、お土産になっています。

そんなマスキングテープ用の素敵なテープカッターがあります。岡山・成羽町の工房川月、川月清志さんによる無垢の木を使った木製テープカッターです。

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本体の土台となる部分は、画像左側のオレンジ色の木材が日本のサクラで、右側のエンジ色の木材がアフリカ産のブビンガです。いずれも硬く頑丈な木で、木の本来の色が生活空間に映えます。表面はよく研磨され、撫でると、しっとり・すべすべしていて気持ちがよく、涼やかな摩擦音がします。

テープを装着する軸の部分は、タモ材で、明るい黄みがかった色調が、テープカッターにポップで躍動的な楽しい印象を与えます。

金属のカッターを支える木の部分は、薄くても強靱な部材が使われています。サクラ材のなかでも、水分を吸い上げる導管が少ない、ぎゅっと締まった部材が選ばれています。

このように川月さんのテープカッターは、全てのパーツに異なった木が使われ、それぞれ適材適所に配置されています。

それは、宮大工が作る、寺社建築の様です。宮大工は、木の種類や、同じ種類の木でも、育った山の斜面の方角よって使い分けることで、木の特性を生かし切り、数百年の風雪に耐える建造物を作り上げます。

川月さんのテープカッターは、そんな寺社建築のミニチュア版と言えるものです。一生ものどころか、世代を跨いで受け継がれるべき逸品です。

追伸

川月さんのテープカッターはマスキングテープ専用ですが、セロテープでも、ロールの内側にあるボール紙の部分を、先の尖った道具を差し込んで外すことで、軸にはめて、問題なく使うことができます。

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追記1

アフリカ産ブビンガは資源の枯渇が危惧される木材です。ですが、木の小さな小片が捨てられることなしに、このように余すこと無く使われ、世代を跨ぐ逸品になることは、木の命への深い慈しみであり、省エネと同じように資源保護に繋がるふるまいであると思います。


追記2

川月さんのテープカッターがバージョンアップされています。

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向かって左側が初期バージョンで、右側が最新バージョンです。

最新バージョンは、刃を受けるために木を削った部分の両端が、削り残してあります。

テープの切れ心地は変わりありませんが、見た目が美しく、緻密で完成度が高い感じがして、所有する喜びが増します。

川月さんに訊いてみたところ、そのことを「ひと手間かける」と表現されました。「ひと手間かける」、なんと、うるわしい日本語でしょうか。

ちなみに、最新バージョンの刃を受ける部分に使われている木は、日本のトチノキだそうです。「縮み杢(ちぢみもく)」という木目が波状に縮んでしわがよったように見える、希少な材料が使われています。

川月さんが、小物に使う材料の多くは、建築端材だそうです。本来なら捨てられてしまう木の切れ端をもらい受けて、命を与えます。

あまりの感動で、全てのタイプをコレクションしてしまいました。

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追記3

川月さんによるテープカッターの新作が出ました。

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本体は、後述の番外編1で紹介する黒柿で作られています。カッターを受ける部分は、強靱なナラ材で、表面に虎木目が浮き出ています。軸は、従来品と同じタモ材ですが、透明な漆でコーティングされていて、更なる、ひと手間がかけられています。

また、ひとつ、テープカッターのコレクションが増えてしまいました。


番外編1

川月さんによる小品の箸置きです。

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樹齢数百年の柿の老木から希にしか採れない、黒い縞の入った「黒柿」が使われています。そんな希少な木でも、家具工房から出た端材を用いてあるので、お手頃な値段で購入できます。丁寧に木組みされた専用ケースも、高精度のミニチュアといえる仕上がりで、清らかな実在感を放っています。

普段使いで、生活に潤いをもたらしてくれる逸品です。


番外編2

川月さんによる豆皿です。家具工房から譲り受けたエンジュの端材を、電動のグラインダーで削り出したものです。

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端材の元々の形と木目を生かして、川月さんが手の感触で木と対話しながら、ラフな感じで成形したものです。形が手の指にぴったりと合わさるのは、意図したものではなくて、おのずと成ったものだそうです。生きていた木の神秘性を感じます。

木は、川月さんに新しい命を与えられて、とても喜んでいるように見えます。

エンジュは元々は黄色なのですが、経年変化を経て、あめ色に変化して行くのだそうです。


番外編3

川月さんによる、桑の木の一枚板を使ったフォトフレームです。

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天然の木は、乾燥している間にどうしても割れてくるものが出てきます。川月さんは、割れ目にリボン型の木材パーツを組み込んでチギリ加工を施し、つないでいます。

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チギリ加工

チギリとは「契」と書き、運命的な固い結びつき、を意味します。チギリ加工を施したフォトフレームは、結びつきが切れない、という縁起物になります。

家族や恋人の写真を入れると、元は割れてしまって家具に使えなかった木が、生まれ変わって生き生きと輝き出します。


番外編4

川月さんによる、木製の折敷(おしき)です。無垢の板で作られた、厚さ3.5mmの薄いものです。

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同じ形と大きさで、板に厚みがある折敷もあるのですが、この薄い作品の方が値段が安くなっています。おそらく、薄い作品のほうが技術的に難しく、手間もかかるでしょうから、同じ値段か、むしろ高く設定したらよいのに、と思ってしまいます。ですが、そこが自分のことは後回しにする、川月さんらしさかもしれません。

川月さんの「成羽ごころ」の、心意気を感じました。






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